愛染堂市
女は両手を広げながら俺ににじり寄って来る。
可笑しな話だ。
この女は片手しか無い筈なのに、俺の目には『両手を広げ一歩一歩噛締めるように歩み寄ってくる』確かにそう見えた。
「―――アタシ、毎日つまらなかった・・・不幸せとかなのかも知れないけど、初めて会う男に脚を広げて・・・しゃぶったり、舐められたり、変態野郎は無理な注文したり、アソコに訳の分からないモノ入れられたり・・・寒気がする程に気持ち悪くて辛いのに、辛いってよりも慣れっこになってて、そんな時間が酷く退屈でつまらなかった」
女は言葉を重ねながら歩み寄ってくる。
「アタシね・・・知ってるの。・・・何でこうなったかも全部。・・・アタシね育ちは悪くないのよ、お父さんだってお母さんだっているし、高校までは全寮制の女子高に通ってたんだから。・・・その時も退屈だった。・・・だからかな?変な男に引っかかっちゃって家を出たの」
『止まれ!!俺はオメエの事なんか聞いちゃいねぇ!!』
「いいよ、撃って。・・・アタシは話したいだけなんだから」
女は俺の制止も聞かず、なおも歩み寄ってくる。
「アタシって馬鹿だし、男を見る目が無いのよね。・・・なのに男に縋って・・・本当に馬鹿だよね」
女の顔は遂には俺の構えるグロックの銃口の前まで来る。