愛染堂市
―――――中島



『アレは普通じゃない』


 俺の勘が、久し振りに警笛をならす。

俺は若造を、気まぐれにからかった事を後悔した。

バンから出てきた男は、明らかに塗装屋では無かった。

かと言って、ジャンキーや物取りの類でも無い。


『おい・・・若造。 取り敢えず、飲酒のチェックをして酒の臭いがしなけりゃ、すぐに戻れ・・・いやむしろ酒の臭いなんかどうでも良い、簡単な職質ですぐに解放しろ!!アイツは雰囲気が違う』


「はぁ?・・・何言ってんです?」


『とにかく俺の言う通りにしろ』


 俺にはそれしか言えない。

若造は、腑に落ちない顔をしながらパトカーを出て、バンから出てきた男の所へ向かった。


『俺も一緒に行くべきか?』


 俺の取り越し苦労なら問題無いが、どうもさっきから背中やケツの下の方に汗を感じる。

シートに触れている部分に、熱が溜まっている様な感覚。

しばらく忘れていた感覚に、俺自身が戸惑っている。



 若造が男に、何か言いながら歩み寄る。

男は半笑いしながら、若造の質問に答えているようだ。



俺の心配を他所に、若造はマニュアル通りのあての外れた職質を続け、何度か男は首を傾げながら答えていた。


 男がチラリとこちらを向いた。


『奴と目が合った。 ・・・やはり奴は普通じゃない』


古ぼけた勘の、警笛が高鳴り、不安にかられる。

俺は若造を連れ戻す為にパトカーを出る。

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