愛染堂市
 
「・・・しょっぱい」


女は悪戯に笑うように、少し顔を離して俺の目を見上げる。


 俺は女の頭の後ろに手を伸ばし、女の後頭部を掴み離れた顔を再度目の前に引き寄せる。


『ふざけるな!!』


「ふざけてないよペンキ屋、アタシは本気!!」


女も少しばかり真剣な顔で、俺の言葉に応戦するように少し声を荒げる。

女の真剣な目の中に俺が映り込む。

全てを吸い込まれてしまいそうな視線の中に、「京子」の影が一瞬横切ったような感覚に陥る。


そして何者をも吸い込んでしまうような引力で、俺は女の唇に吸い寄せられる。

強く強く、まるで同化してしまいたかのように女を両手で引き寄せて、唇を右へ左へとくねらせるように重ねる。

そこには居ない「京子」の唇の感触を思い出すように必死に目を瞑る。

女の右手が俺の首の後ろに回り、同じように同化しようと舌を絡ませる。


 吸い付いて離れる事が出来ないかのように、俺とアサガオは唇を重ね続ける。


 やがてアサガオは、力尽きて倒れてしまいそうにガクリと膝を落とし、俺の胸に体を預けるように抱き付き唇を離す。


「・・・ペンキ屋、抱いてくれる?」


『・・・言ったろ、俺はインポだ』


女は俺を突き抜けそうな程、強く胸に顔を埋める。


「・・・じゃぁペンキ屋」


女はゆっくりと顔を上げる。


「貴方を抱かせて」





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