愛染堂市
―――――ヤマモト



 俺の携帯が胸ポケットで鳴る。

俺はゆっくりと取り出し、モニターの名前を確認し通話のボタンを押し込み耳に当てる。


「―――なんだ?」


電話口に出た男の無愛想な声が俺の耳に入ってくる。

懐かしくもあるような少しムカつく声だ。


『なんだじゃねぇよ!!・・・何遍テメェに掛けてると思ってるんだ?』


野郎に繋がるまでの間、俺は野郎の秘書らしい冷めた喋り方をする女に、何度も名前を告げ、何度も「ペンキ屋の件だ」と伝えた。

かれこれ四度程の催促で、やっと折り返して来た野郎の言葉が腹立たしく、俺は自然とデカイ声を出す。


「・・・用件を言え」


『テメェに繋がるまで、何遍もアノ無愛想な秘書に用件を伝えてんだぞ。今更用件も何もねえだろ?・・・ペンキ屋だ!!ペンキ屋の件だよ!!』


俺の声に動じる事の無い野郎の態度が、益々俺の癇に障る。


「今更、ペンキ屋の話を持ち出してどうする?」


『・・・ペンキ屋は死んじゃいねぇ』


俺の言葉に電話の向こうの野郎は言葉を返さない。


『なぁ、聞いてんのかよ?』


「・・・それがどうした?」


『どうしただぁ?・・・随分と余裕じゃねぇか?!』


「・・・事が起きたら、こちらで処理する、お前が考える必要は無い」


『なんだぁ・・・随分と御挨拶じゃねぇか?・・・今朝から江島と連絡が取れねぇぞ!!・・・既に事は起こってるんじゃねぇのかい?』


「・・・悪いが、もう切るぞ」


『オイッ!!オイオイ!!』


「手は打ってある・・・もうココへは電話を寄こすな」


 野郎は最後まで声色を変える事無く無愛想に電話を切った。



『―――ックソ』


檜山がチラチラとミラー越しに俺を気にして視線を送る。


『なぁ檜山~?』


「なんです?」


『俺は俺で手を打とうと思ってんだが?』


「はい、お手伝いします」


『午後の予定は全てキャンセルだ!!・・・江島の家へ向けろ』


「はい」


『まぁ・・・何はともあれ、現状把握だよなぁ?!ヒヤマァ~!!』


「はい」









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