愛染堂市

『感じる?』


アタシの言葉にペンキ屋は、煙草の煙を吐き出しながら首を横に振る。

アタシは何度も、ペンキ屋の下着の下に隠された部分にキスをする。

唇に熱は感じる。

ただし感じるモノは熱だけで、そこはひっそりと静まり返り、感情を露にした脈動を感じる事は出来なかった。

男として申し分の無い、無駄の少ない、まるでボクサーのように綺麗な体をしたペンキ屋が、女を抱く事が出来ない。

その事実はアタシを何故か悲しくさせた。

それは、これ程までに強く抱かれたい欲求が叶わない事への、アタシ自身の悲しみなのかもしれない。

ペンキ屋が不憫と言うよりも、アタシに起こった感情の矛先が、定まらない事への苛立ちに似ていた。


 アタシは強くペンキ屋の胸を叩く。


「いてっ!!何だよ!!」


ペンキ屋は煙を咳き込みながら吐き出し、アタシを後方へ押す。


「何なんだ?お前は?!」


『ペンキ屋・・・お願い』


「・・・何が?」


『抱いて・・・』


アタシはベッドの淵から落ちそうになりながら、ペンキ屋を見ずに呟くように言葉を吐く。


「・・・だから無理なんだよ」


『今までに・・・』


「ん?」


『今までに誰かを愛した事はあるんでしょ?』


ペンキ屋はアタシの言葉に、表情を曇らせる。

アタシはペンキ屋にずっと感じていた、緑の瞳の奥の存在を確信する。


『代わりでもいいの・・・その人みたいにアタシを愛して』


嫉妬心にも似たような、切なる叫びがアタシの口から放たれる。

その叫びはアタシの涙も伴って、熱く頬を伝う。


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