愛染堂市
「―――代わり?」


 ペンキ屋が曇らせて俯かせていた顔を上げる。

アタシの背筋に冷たい感覚が走る。

澄んだグリーンの瞳は透明な輝きを失い、その半分を覆い尽くすように、厚く下げられた瞼は、まるで満月を隠す暗雲のように不気味だった。


「女・・・調子に乗るな、お前は何のつもりか知らんが・・・何の代わりをするって言うんだ?」


冷たく重みのある声が部屋に静かに響く。


『貴方のその目の奥に、時折見え隠れする貴方の悲しみを見せて!!』


アタシは漏らしてしまいそうな程、恐ろしいペンキ屋の目に、負けないように声を上げる。


「悲しみ?」


ペンキ屋はなおも瞼を重く強く下げて、アタシを睨み付ける。


『そうやって、また隠すの?』


「隠す?・・・俺が何を隠す?」


アタシは深呼吸するように息を大きく吸い、口から飛び出してしまいそうな程、ドキドキと高鳴る胸に空気を送る。


『―――心』


「何?!」


『心よっ!!』


「言うなぁーーーっ!!」


ペンキ屋は部屋を強く響かせるような大きな声を上げ、枕元に置かれた拳銃を取り、素早くアタシに向ける。


「女、それ以上を口にするな・・・お前が次に口を開き、吐き出そうとしている言葉を胸にしまえ、そして今すぐココから出て行け!!」


ペンキ屋は今までと、明らかに違う表情をアタシに見せる。

それは恐ろしくもあるが、逆にペンキ屋自身が何かに恐れているようにも見えた。

確信を得たアタシの心は止まらない。



< 88 / 229 >

この作品をシェア

pagetop