愛染堂市
―――――ペンキ屋



『まったく・・・気だるい』


 いったいコイツは、俺に何の用なんだ?

 取り留めの無い質問に、俺は適当に答える。

俺もそんなに暇じゃねぇ、いつまでもケツの青いガキの、くだらない質問に応えてやる気は無えぞ。


俺がパトカーに目を向けると、パトカーに残った中年の刑事と目が合った。

くたびれた印象は否めねぇが、ちょっとやっかいな感じの男だった。


「――取り敢えず車を確認したいんですが?・・・いいですか?」


『・・・別に構いませんけど・・・仕事の道具しか入ってませんよ』


とは言ってみたものの、流石にトランクを開けられるとまずい。

俺はポケットの中の、カッターナイフを確認して、いつでも喉を切付けられる様に、カッターの刃を出しておく。


 パトカーから中年の刑事が出てきた。

俺はやっかいな事になる前に、若い制服と俺の距離を目測した。


『――イッキに片付けるか?』


「もういい行くぞっ!!」


ケツの青い制服が、トランクの扉に手を掛け、俺がケツの青い制服との距離を詰める為に、左足を一歩前に出した時に、パトカーから出てきた中年刑事が声を掛けてきた。


「・・・はい?!」


「もういいぞ、署に戻る時間だ」


「・・・でも、まだ」


ケツの青い制服は、俺のバンのトランクの扉に手を掛けたまま、腑に落ちない顔をして中年刑事を睨んだ。

俺は出した左足を戻し、中年刑事の方を眺めた。


「・・・足止めしちゃって悪かったな」


『いえ・・・別に構いませんよ』


中年刑事は、苦笑いを浮かべながら俺に謝ってきたので、俺は少し拍子抜けしながらも月並みに返した。

ケツの青い制服も、これ以上無駄な事を続けるのを諦めたのか、トランクの扉から手を離して、こちらに一礼してパトカーの方を向いた。

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