愛染堂市
 
滑稽だ。

この暑さで、黒や紺のスーツを着ているのは自殺行為なのかもしれないが、あの黒人のスーツは白過ぎる。


「ビァアッ」


向かいのカウンターの黒人の、スーツの白さに目を奪われている俺の視界を遮るように、バーテンの黒人が、俺の目の前にバドワイザーのボトルをドスンと置く。


―――うんざりだ

黒人の取って付けたような「ビア」の発音も、注文と明らかに違うボトルの濃い琥珀色も、大した湿度も無いくせに、すぐさま汗をかき始めるボトルの水滴も、涼しい風も吹き付けないクセに、リゾート地みたいな茅葺きのカウンターバーでバドワイザーを流し込む俺も、つくづくウンザリする。


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