愛染堂市
 
『何を揉めてる?』


 俺はカウンターに置いてあったナッツの味に懲りて、手持ち無沙汰に仲間に問い掛ける。


「さぁ、何だろうね。マニュアルが読めないんじゃないか?英語だし」


『マニュアルなんか有るのか?』


「有るんじゃねぇか?俺は見たことが無いけど」


仲間がそう言いながら、カウンターの上のナッツを摘んだ。

『やめた方がいい』と言おうとしたが、俺はハイネケンの事もあったので、敢えて何も言わず仲間の様子を見守った。


「くそっ何だコレ?!」


『下水だろ?』


「コレ食ったのか?」


『あぁ酷いだろ?』


仲間は酷く苦い顔をしたまま、バドワイザーを必死に喉を鳴らしながら飲み干した。

俺はその様子を眺めながら、向かいの黒人がストローでカクテルを啜る音を聞いて、ニタニタとほくそ笑んだ。

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