愛染堂市
 
 仲間は「俺はトラックの方を見てくる」と言い、飲み干したバドワイザーの瓶を乱暴にカウンターに置き席を立った。

俺は簡単な目配せで応えるのみで、ヌルくなり始めたバドワイザーを飲み干す事なく、席を立たずに、またテレビに目をやった。

テレビでは、ここのバーテンと同じくらいに暑苦しい笑顔をした黒人が、何だか発音の難しそうな清涼飲料水を飲むCMが流れていた。

そのCMの、実にアフリカらしいカラーリングのボトルの清涼飲料水は、黒人があそこまで爽やかな味がするようには到底思えなかった。

俺はヌルくなり始めたバドワイザーを飲み干し、胸ポケットから汗で湿気を帯びた煙草の箱を取り出す。

そして煙をくゆらせながら、このバーにCMの清涼飲料水は無いか、バーテンの後ろの冷蔵庫を探す。

< 98 / 229 >

この作品をシェア

pagetop