緊急逮捕-独占欲からの逃亡ー

3)言いたいこと、言えないこと

帰宅したときには、甘いもの欲求は充分に満たされ、楽しい気分で玄関を抜けた。

おっと…。
油断してた。

部屋に戻ろうと廊下の角を曲がると、茅ヶ崎さんとばったり遭遇してしまった。
仕事終わりなのか、スーツ姿だ。

「あ…。
えーっと…」

転回して行き先を変える。
こういう時に限って、屋敷の人がまわりに誰もいないのは、運が良いのか悪いのか。

「藤田さん、待って」

「な、なんでしょうか」

こんな風に喋るのは、彼がここに来てから初めて。信じられないくらい緊張してる。

「社長から、藤田さんとは顔見知りなのかって聞かれて、前に面識があるって話してしまったんだ。でも、今はもう関係ないんだし、言わない方が良かったよな。ごめん」

今はもう、関係ないんですか。
そうですよね。
もう、赤の他人ですもんね。
偶然再会したからって、心乱してるのは私だけですもんね。

大丈夫。
こんなの、そのうちどうでもよくなる。
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