緊急逮捕-独占欲からの逃亡ー

それは、初めて会った日の夜の事。
まだ、俺たちの手首は手錠で繋がれていた。

彼女は全てが気に食わないとでも言いたそうに、無言の抵抗が続いている最中だ。

こんなにわかりやすく意地を張られたのは初めてだ。
たしかに面白い。

ひたすらに黙ってると思ったらなんだ?
夜空を見上げてたのか。

一緒になって見上げてみるが、今夜は天気が良くない。
分厚い雲が星を隠してしまっている。
暗いし不気味だし、見ていて心地良いものじゃない。

「そんなに空見上げて楽しい?」

「星が見えますから」

意外にもすぐに返事が返ってきた。
星なんか、どこにもないけど。

「見えない。
何も無いって」

「雲の向こうにありますよ。見えなくても存在してます。
ずっと見上げていれば、そのうち姿を現しますよ。

…こうでもしてないと、訳のわからない現実に押しつぶされそうなんです。
わかりますか、私の気持ち」

そういうことか。
ある種の現実逃避ってわけだ。
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