私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
王都安土の中は、活気が溢れていた――とは、お世辞にも言えない。
賑やかな関所を背後にした今となっては、ゴーストタウンに来たみたいだ。街には誰の姿もない。人どころか、ねずみの姿さえなさそうなほど、がらんとしている。
(先に入った人たちは、どこに消えたんだろう?)
大通りに沿って並んでいる建物が、人がいないってだけでひどく不気味だ。
「おい! こっちだ」
呼ばれて振り返ると、毛利さんが脇道を指している。その先には、四角い大きな穴が開いていた。
その穴は、二メートルほどの正方形で、階段が数段覗いている。
「地下ですか?」
「そうです」
毛利さんを見て言ったのに、返事が無かった。代わりに答えてくれたのは柳くんだ。
毛利さんは先頭きって、地下へと続く階段を下りた。
(なんか、変なの)
毛利さんは、王都に近づくに連れて、能面づらが更に能面になった気がする。
蛙蘇周辺の町までは、微妙ながらも表情があったのにな。
* * *
長い長い階段を下って、地下に降りると、思わず息を吐いた。
「すごい!」
地下は、オレンジ色の明かりに彩られ、市が出来ていた。
巨大な地下トンネルに出来た和風のバザールといった感じだ。
そこを、大勢の人が行きかっている。
「千葉の冬は厳しいですから、商業都市では、このような形を取るんですよ」
「王都に人が行きかわないというのは、沽券にかかわるからな」
「へえ……すごい!」
なんだか幻想的な風景に、ただただ感じ入ってしまう。
なかでも、このオレンジ色の街灯は、キラキラしていてすごくキレイ。
「この光はなんですか? 炎じゃないですよね?」
「これは、千葉でしか取れない燈灯藤(とうとうふじ)という岩石と、シャル草という植物から造り出された灯りです。空気も汚さないし、冬の期間くらいは平気で持ちます。この明かりも、このような地下街も毛利さんが造ったんですよ」
「え!?」
驚いて毛利さんを仰ぎ見ると、能面の顔に、どことなく紅がさしたような気がした。
少し色づいただけでも、普段の様子と違って見える。
(やっぱ、元は良いんだよね。この人。勿体無い)
表情があれば絶対にモテるのに。今がどうとか知らないけどさ。
「別に、俺が造ったわけではない。俺は、その時の自分の仕事を全うしただけだ」
照れるかなと思ったのに、抑揚の無い口調でちょっと残念。
「その時の仕事って?」
「地下街の時は、文官で、国の商業に関する職についていた。元々千葉は田舎の方じゃ、冬になると地下に潜る。それを応用しただけだ」
「明かりは?」
「それも同じだ。ランプは蝋燭を使う。ガスの場合もあるが、どちらも地下には適さない。だから、同時期に開発しただけだ。もっとも、俺は発案しただけで、研究開発は専門家に任せた。故に、俺が造ったわけではない」
淡々と語る毛利さんは、出来る男って感じでなんだか、かっこ良く見えた。
「へえ。すごいんですね。毛利さんって」
素直に褒めると、胡乱気な目で睨まれた。って言っても、微妙だから本当にそうなのかはわからないけど。
「貴様、人の話を聞いていないだろう」
「え? 聞いてましたけど」
きょとんとしながら言うと、小さくため息をつかれてしまった。
本当に思ったんだから、良いじゃない。