私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

「俺は三条が死んで、魔王が暴走してから自分の過ちに気がついた。アジダハーカと魔王が共鳴したから魔王が大人しくなったわけではなく、魔王とアジダハーカが繋がったことで、魔王にも三条一族の『相手を操る呪符』が影響されていたんだ。魔王を操れていたのだとしたら、分離も不可能ではなかったかも知れん」

「そう。それに、封魔書の中の男もそれをやろうとしてたんだよ。でも周りの反対を受けて殺された。そもそも、出来ないんだったら、そこまで必死になって止めないでしょ。出来るから、もしくはその要素があったから殺されたんだよ。でも、いずれにしても、推測の域を出ないんだけどね。魔王の力が操れてたって言うよりは押さえ込まれてたのかも知れないし」

「ああ。おそらくは、そうだろうな。完全に操る事が出来るなら、三条はもっと多くの能力を使ってきたはずだからな」
「そうだね。魔王からの攻撃は一度としてなかったからね」
「お前ら、そんなこと考えてたのな」

 感服した花野井に、黒田はフードを軽くひっぱりながら呆れたように言った。

「おっさん将軍のくせに想定して戦ったりしないの?」
「俺は勘だきゃ利くが、そういうのは月鵬の仕事だからなぁ。俺は力でごり押し派だ」
「ああ。だろうね。重力砲跳ね返せるだけの力があれば、アンタ一人で二十万の軍隊相手でも勝てそうだもんね」
「そいつはどうも」

 皮肉った黒田に、花野井はニッと笑った。
 若干悔しそうな黒田は毛利に向き直って、真剣な瞳を送った。

「分かってると思うけど、忠告しておくよ。アンタの能力で彼女の魂は彼女の体に定着してるんだ。アンタが死んだら彼女も死ぬよ。せいぜい長生きするんだね」
「まあ、それが千葉の人達にとっても良い事だろーけどな」

 花野井が口を挟んで、にかっと笑う。毛利は静かに頷いた。

「むろん、そのつもりだ」
「じゃ、ぼくはもう帰るよ。翼も動ける状態になったしね」
「俺もそろそろ帰るわ」
「ああ」
「この分の借りはいつか返してよ」
「まだ言ってんのか」

 花野井がツッコミを入れると、不意に毛利が真剣な声音を投げかけた。

「――黒田、まだ復讐を考えているのか?」

 振り返った黒田は、あからさまに嫌悪を向けた。

「なに? まさか復讐なんてくだらないとか言うわけじゃないよね?」

 毛利は小さく首を振る。

「まさか。それも一つの生き方だ」
「だよね」
「だが、この国に牙を向いたときは覚悟しておけよ」
「ハハッ! そうだね。そのうち進軍するかも。――じゃあね」

「お前は、また物騒なことを言うなよ。ちょっとは立場を考えた方が良いぜ? 俺が言うのもなんだけどよ」
「〝なん〟なんだったら、黙っててよ。おっさん!」

 やいのやいの言い合い、出て行こうとする両名の背を目で追いながら、毛利は声をかけた。

「ありがとう」

 振向いた両名の目に映ったものは、深々と頭を下げた毛利だった。
 二人は驚いて顔を見合わせ、ふっと照れたように笑んだ。
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