私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 花野井と黒田が出て行ってすぐに、柳はすくっと立ち上がった。

「ぼくも、そろそろ記録を告げに行く時間なんで、行ってきます」
「ああ」

 毛利の愛想のない返事を聞いてから、柳は部屋を出て二階へと向った。
 廊下の突き当たりで、ジャンプして天井を押す。
 すると、天井の木板が外れて、中から階段が降りてきた。
 音を立てずに階段を上り、真っ直ぐに歩いて窓際に立つと、柳は瞳を閉じた。

「現在冬季以外の住まいが損壊中なため、冬季用の毛利邸からになります。夕闇の鶴はこちらの位置を把握していますか、廉(レン)の玉(ギョク)? ――了解。簡潔に述べます。現在、能力過多により、衰弱していた毛利影也は順調に回復中。黒田ろくも回復した模様。花野井剣之助に至っては殆どの箇所を骨折していたはずなのに、僅か二日程で全快したもよう。とんでもない化け物ですね」

 呆れたように言った柳だったが、どこか感心を含んでいる声音だ。

「双陀翼は花野井を除いて一番の重傷者でしたが、回復中。月鵬に関しては言うに及ばず。アジダハーカ、三条との戦いは、夕闇の鶴が見ていたでしょうから、詳しい報告はいらないですよね? ――ああ、途中からでしたか。じゃあ、いりますね。では、彼女のことについても書面にてお知らせいたします。ヤナギからの定時報告終わります」

 柳はパッと大きい瞳を開けると、袖から巻物を取り出した。
 竜皮で出来た筆を取り出すと、軽く筆の中腹を押す。すると、ペン先が黒く滲んでいった。

 柳は、巻物に向き直った。
 何から書こうか暫く思案する素振りを見せ、ふと笑んだ。
 三日前の出来事を思い出し、良い物を見た気分に浸る。

「お姉さんは、本当に強い人だなぁ」
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