私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
「つ、疲れた」
余裕で上りきる……無理でした!
やっぱ人間、出来ることと出来ないことがあるよ。
「フッ」
……また小バカにされた。
(ちくしょー! 毎日運動してやる! 楽々上りきってやるわ!)
地上へと続く扉を前に、私は奮起したのだ!
やっとたどり着いた地上への扉を開けると、四畳くらいの薄暗い部屋だった。
物置なのかなとも思ったけど、何も置かれていない。畳も敷いてないし、木の板がむきだしの床だ。
その部屋を出ると、向かい合うように扉があり、狭い廊下が僅かばかりに続いていた。その先に光が差している。
どうやらここは、まだ地下みたいだ。
今度は長くない階段を上がると、畳が敷き詰められた部屋へと出た。その部屋はさっきの部屋と変わらず、何もない。違う点は畳があるかないかだけ。
部屋を突っ切って、障子を開けて廊下に出る。
柳くんに案内されるまま歩いて行く。
階段を上がり、二階へ行き、廊下の突き当たりで止まった。
毛利さんが手を伸ばしながら、軽くジャンプして、天井を押すと、天井の木板が外れて、中から階段が降りてきた。
「隠し部屋?」
私の質問には、柳くんも毛利さんも答えなかった。
そのまま、
「さ、どうぞ」
と、柳くんに促される。
私は怪しみながら、階段を上がった。
階段から、部屋を覗くと、畳が敷かれたキレイな部屋だった。
埃だらけの天井裏を想像していただけに、ちょっと感動してしまった。
布団がこじんまりとたたんで置かれ、箪笥が一つ、ローテーブルが一つ。部屋の奥には細い窓がついている。
私が部屋へと踏み出すと、柳くんが階段から顔を覗かせた。
「ここが貴女の部屋です」
「へえ。結構ステキ……って、私ここに住むの!?」
「はい」
「でも、みんなのところに戻って、元の世界に帰る方法を――」
「貴様は本当に学習しないな」
遮るように、下の階から淡々とした声が飛んできた。
「言ったであろう。俺はお前を諦める気はないと。もちろん、魔王の事だが。貴様には、ここにいてもらう。部屋の外に出る事は許さん」
唖然とする私に、柳くんが明朗に告げた。
「そういうことみたいです。じゃ、閉めちゃいますね」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて追いすがった。
でも、階段を覗いたその瞬間。
――ガチャ。
施錠される音が小さく響く。無常にも扉は閉ざされた。