私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
数分歩いたところで、分かれ道にぶつかった。
右は、まっすぐに伸びた道で見渡しは良さそう。
左は、曲がりくねっていてなんとなく鬱蒼としている。
「うん。右だな!」
私は深く考えず、第一印象で即決した。
そして、それが大間違いだった。
* * *
「いやぁああ! 寒いぃ!」
思わず悲鳴を上げた。
猛吹雪に包まれた森の中で、私は自分の身体を抱きしめる。
なんでこんなことになったのか……。
事態は数十分前にさかのぼる。
数十分前、私は町を抜けてしまったんだと気づいた。
森の間から、城壁の一部が見えたからだ。
いつの間に抜けたんだろうと思って、もしかしたらあの屋敷は、城壁の外にあったのかも知れないと気づいた。
城壁に向って歩き始めたのに、たどり着く気配を見せず、城壁も深い森に隠されてしまって、もうどっちへ進んで良いのかも分からない。
城壁を目指したから、道からも外れてしまって、獣道すらも見当たらなかった。
途方に暮れていると、ちらほらと雪が降り出して、ああ、雪かぁ。綺麗だなぁ、なんて、暢気に思った途端。
風が出てきて、雪が激しくなり、数分もしないうちに、豪雪になってしまった。
「なんで、こんなことに……」
私は半べそをかきながら、ガチガチと震える。
(とにかく、どこか避難出来る所を見つけなくちゃ!)
すでに雪は膝まで積もっている。
私は寒さで感覚を失いながらも歩き出した。
そのときだった。
「ギギャギャギャ!」
不気味な鳴き声が、森の奥から聞こえてきた。
(嫌な予感……)
私は、目線だけで声の方向を見る。
すると、そこには――何もいなかった。
「なんだぁ……」
真っ白な積もった雪と木々があるだけ。他には何もない。
私はほっと息をついて、雪を掻き分けて歩き出そうとした。
そのとき。
「ん?」
何か見過ごした気がして、私は振り返った。
良く目を凝らして見て見ると、積もった雪が一部、二つの岩の上に降ったように、こんもりとしている。
いや、違う……あれは。
「……ドラゴン」
私は青ざめながら呟いた。
雪の上にいたのは、白銀のドラゴン。
二つの緑の目が、私を見据えていた。
翼は無く、頭の大きいドラゴンで、前脚は短く、後ろ足が発達している。
固まる私は、更なる絶望を捉えた。
そのドラゴンの後ろに、双眸がもう一つ……。
(逃げなくちゃ!)
後退りしたときだった。
「ギギャギャ!」
ドラゴンたちは雄叫びを上げながら、私に迫ってきた。
「きゃ、きゃあ!」
叫び声をあげながら、踵を返すけど、雪に脚を取られて上手く進めない。
追いすがる声に、思わず振向くと、ドラゴンたちは雪の深さをものともせずに、私に向って走ってきていた。
その速度は、犬が走るのとほぼ代わらない。
(――ああ。もう、これは、もう、ダメだ)
絶望が襲った瞬間。
ドラゴンの、穴のように大きな口が私の鼻先で開かれた。
(――あ。死ぬ)
死にたくない。