私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
息を殺して、音が立たないように、ひっそりこっそり歩いた。
壁沿いに体をくっつけて、覗き見る。
私は現在、毛利さんを尾行中。といっても、まだ屋敷の中だ。
彼は、静かに歩きながら、地下室へと入っていった。
毛利さんが地下街へ続く部屋へ入るのを見届けて、私も後を追った。
中には、男性が一人立っている。
夜の間は、地下街のドアの前だけでなく、家の中のドアにも番兵がいるのだ。そしてそれは、原さんだった。
原さんは私に気づいて、怪訝な表情を浮かべながら、微妙に手を振った。
「こんばんは」
「こんばんは。どうしたんですか?」
「今、毛利さんが降りて行きましたよね?」
「そうですね」
私のにやついた表情を不審に思ったのか、声音が硬い。
「毛利さんをつけてみませんか?」
「は?」
「だって、夜出かけるなんて気になるでしょ? きっとどこかに飲みに行くんだと思うんですよ」
お父さんもよく飲んで帰ってきたもん。
「私達もお邪魔して、美味しい物ごちそうになりましょうよ!」
「いや、しかし……」
「ね、行きましょうよ!」
原さんは優しいから、絶対押せば通してくれる! ――はず。
「大丈夫、怒られそうになったら、私が無理に頼んだって言いますから!」
「でも、夜はそれなりに危険なんですよ」
「原さんが守ってくれるでしょ?」
上目遣いで、ちょっと目を瞬かせてみる。
私のぶりっ子が通用するはずがないけど、これでダメなら、諦めよう。
そう思ったとき、原さんは、大きくため息をついて、
「……分かりました」
折れた。
「やった!」