私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
第五章・ご報告

 毛利がある店の前に立つと、店から背の低い女が出てきた。
 女は毛利の腕を引くと、店の中へと促した。
 二人は個室へ入ると、女が艶やかに尋ねた。

「お兄さん、何にします?」
「……いつまでやっているつもりだ。柳」
 冷めた目を送る毛利に、女、もとい柳はにやっと表情を崩した。
「やだなぁ。毛利さん。演出、演出。楽しんでくださいよ」
「楽しめるものか」

 快活に、丸い目を大きくして言う柳に、毛利は抑揚のない声で返した。
 すっぱりと一蹴された柳は、僅かに声色を低くした。

「秘密のお話をするには、こういう場所は最適ですからね」
「秘密のお話も聞ける事だしな。お前らのような連中が良く使う手だ」
 抑揚無く嫌味を告げた毛利に、柳はからかうような声音を出した。

「その連中を利用したり、飼ったりしてるくせに」
「当たり前だ」
 またもや毛利に一蹴されて、柳は口元だけで笑んだ。
「では、ご報告を」

 毛利は静かに頷いた。
 それを見届けて、柳は真剣な顔つきに変わった。

「どうやら、美章の黒田と岐附の花野井が手を組んだようです。花野井の部下である月鵬が、倭和に持ち込まれた封魔書を持ち帰り、それを調べているようです」
「ほう」
 毛利はごく僅かに、片眉を上げた。

「おそらく偽者なのではないかと」
「そうか」
「引き続き追っても良いですか?」
 柳の質問に、毛利は二つ返事で返した。
「ああ」

 そこに、バタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
 柳が、目線を戸に移した瞬間、大きな音を立てて戸が開いた。

「毛利様!」
 絶叫しながら中に入ってきたのは、原だ。
「あれ? お一人ですか?」

 てっきり女と供にいると思っていた原は、怪訝に首を傾げた。
 どこを見回しても、個室には毛利の姿しかない。
 柳の姿は忽然と、どこかに消えていた。

「なんのようだ?」
 表情無く告げた毛利に、原は、ハッと我に帰った。
「すみません! あの、谷中さんが……」
「小娘がどうした?」
「えっと、その、連れ去られてしまって」
「……なに?」

 毛利の声音に僅かに動揺が走る。
(まさか、黒田か、花野井か、もしくは三条の手の者か?)

 毛利は内心焦った。だが、毛利の焦りは、すぐに別のものへと変わった。
 原が事情を説明し、男の形容を語ったとき、毛利の中で、ある人物がピタリと当てはまった。
 毛利は深くため息を吐き、苛立ちと憤りを隠した。

「まったく、あの馬鹿者が」
 その様子を、隣の部屋で覗き見ていた柳は愉しげに口元を歪ませた。



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