私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 一行の後を追う形で、私達はある門の前にいた。
 その門は、明らかに他の出入り口と違って、大きくて荘厳だった。
 門の前に仁王立ちしている門番に、コウさんがそそと近寄って、木の板を見せると、門番は敬礼をして門を開けた。

「さ。行きましょう」
 コウさんは振り返って、入城を促した。
 私は門を潜りながら、

「気になってたんですけど、その木の板ってなんなんですか?」
「これですか? これは入国証(ゲビナ)です。他国や町に入る時なんかに必用になります」
やっぱり。そうなんだ。

「もしかして毛利さんの入国証は特別だったりするんですか?」
「何故です?」
「前に憲兵に見せたら、みんな驚いていたので」
「ああ」
 コウさんは納得するような声を上げた。
「官吏、文官は入国証にその地位を書かれるんです。他国に行った時に分かるようにするためですね。逆に武官はこういった物を持たされます」

 コウさんは自分の入国証をかざした。
 その入国証は板の先に、金属で出来たエンブレムが吊るされていた。
 そのエンブレムは、雪男のような大猿のような姿の生物が象られていた。

「原も持っていますよ」
「まあね」
 コウさんが視線を原さんに移すと、原さんは私に向ってにこっと笑って軽く手を振った。

「ふ~ん。じゃあ、もしかしてさっき通してくれたのは、入国証を見たからって言うよりは、そのエンブレムを見たからなんですか?」
「そうです。察しが良いですね。普通の人は入国証を見せてもまず入れてもらえませんからね」

(へえ。じゃあ、コウさんって武官なんだ。とても、兵士には見えないけどなぁ。っていうか、ただの侍女じゃなかったんだ)

 ジロジロと見ていたら、コウさんと目が合ってしまった。
 思わずへらっと愛想笑いをすると、コウさんも怪訝な表情を浮かべてから愛想良く笑った。
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