私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
届け物が済んだので、私達は早々に帰路についた。
長い長い階段を今度は下っていく。
ちょっと気が滅入りそうだったから、階段を考えるのはよそう。
「あの、ヘタレそうな黒服の人って誰ですか?」
地下の階段を下り始めたところで、道中の会話に、と思って私が切り出すと、コウさんと原さんはげんなりした顔をした。
「あれね……」
「あれな……」
二人は顔を見合わせて苦笑しあう。
「なんですか?」
私が怪訝に訊くと、コウさんが口を開いた。
「前にちょっと話したでしょう? あれが、千葉の王様です」
「え!?」
驚く私を尻目に、コウさんはため息をつく。
「ね? だから毛利様がいないとすぐにダメになるって言ったんですよ。巷じゃ、皆、王のこと〝怠惰王〟って呼んでます」
「有名なのが、十年前のあれだよなぁ……」
嘲るように口の端を上げたのは原さんで、コウさんはすぐにその口を手で塞いだ。
眉を吊り上げて、睨みを利かすコウさんに、原さんは両手をあげて降参のポーズをとった。
「なんですか?」
私が尋ねると、コウさんは苦笑しながら振り返った。
「う~ん。ちょっと千葉の沽券に関わる事なので、お教えするのはちょっと……。すみません」
頭を下げられてしまったので、私は、「あ、そうなんですか」としか言えなかった。