私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 届け物が済んだので、私達は早々に帰路についた。
 長い長い階段を今度は下っていく。
 ちょっと気が滅入りそうだったから、階段を考えるのはよそう。

「あの、ヘタレそうな黒服の人って誰ですか?」
 地下の階段を下り始めたところで、道中の会話に、と思って私が切り出すと、コウさんと原さんはげんなりした顔をした。

「あれね……」
「あれな……」
 二人は顔を見合わせて苦笑しあう。
「なんですか?」
 私が怪訝に訊くと、コウさんが口を開いた。

「前にちょっと話したでしょう? あれが、千葉の王様です」
「え!?」
 驚く私を尻目に、コウさんはため息をつく。

「ね? だから毛利様がいないとすぐにダメになるって言ったんですよ。巷じゃ、皆、王のこと〝怠惰王〟って呼んでます」
「有名なのが、十年前のあれだよなぁ……」

 嘲るように口の端を上げたのは原さんで、コウさんはすぐにその口を手で塞いだ。
 眉を吊り上げて、睨みを利かすコウさんに、原さんは両手をあげて降参のポーズをとった。
「なんですか?」
 私が尋ねると、コウさんは苦笑しながら振り返った。

「う~ん。ちょっと千葉の沽券に関わる事なので、お教えするのはちょっと……。すみません」
 頭を下げられてしまったので、私は、「あ、そうなんですか」としか言えなかった。
< 34 / 103 >

この作品をシェア

pagetop