私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
トンネルを抜けると、地上へ続く短い階段があり、その先には光が差していた。
階段を上がると三和土(たたき)があり、そこから地続きで、畳が広がっていた。
そこには何人かの人がいて、事務所になっている。
畳の上に机を並べて、書類を整理している人や、何かを書き記している人がいる。
「いらっしゃいませ」
私達に気づいた中年男性が声をかけてきた。
「ラングルを一頭」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
毛利さんが書類を手渡し、男性が書面を見つめながら応対した。二人の後を私はついていく。
足運屋の農場には一度来たことがあった。
おばあさんの雪かきの手伝いをするのに、ラングルを借りに来たときだ。
騎乗翼竜に乗る練習をする時は、コウさんか原さんのラングルを借りていた。だから、ここで借りたのはその一回だけだ。
私はなんとなく懐かしい気分で、キョロキョロと見渡しながら歩いた。
事務所の地板の向こうには狭い窓と、出入り口の扉がある。
その狭い窓からは、積もった雪が見えた。
地板から下りるさいに、三和土で脱いだ履物を履いて、私達は扉から外へ出た。
(寒い!)
冷え切った空気に、思わず身震いする。
一面に広がる雪景色に、小さく息を吐くと、息は白くなって上空へ消えた。
「ううっ、寒い」
ぽつりと呟いて、寒空(サビスク)を鼻まで引き上げる。
案内された場所は、事務所から少しだけ歩いた場所にあった。
ドラゴンの収容小屋だ。
収容小屋は、藁葺き屋根で覆われていて、倭和の屋敷にあった収容小屋のようにむき出しではなく、土壁に覆われていた。
倭和の屋敷にあった収容小屋と比べても比較にならないくらいの広い。
その中に案内の男性だけが入り、一匹のラングルを連れてきた。灰色のラングルはさっきの私と同じように、寒さに身震いした。
「こちらでよろしいですか?」
「ああ」
毛利さんが男性から手綱を引き取って、ラングルに飛び乗った。
私を見据えるので、私は毛利さんに向って手を伸ばした。その手を彼が取って、引き上げた。
ラングルに跨った私の後ろから、毛利さんが手綱を引いて、ラングルは羽ばたいた。
上へ向う反動で、毛利さんの胸にちょんと頭が乗った。
(なんだか、ドキドキする)
前に回された腕に包まれながら、私は頬が温かくなるのを感じていた。