私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
「……キレイ」
足運屋の農場を飛び立ってから、しばらく飛ぶと、森の向こうに山脈が見えた。
山の頂上をノコギリで削り取ったような、切り立った山々が脈々と並んでいる。
あの山々を越えて行くのは大変そうだけど、遠くから眺める分には、美しいとしか言いようがない。
「あの山の麓まで行くぞ」
背後で毛利さんが呟いた。
仰ぎ見た視線の先を辿る。
どうやら、並んでいる山脈の一番手前の山へ向うらしい。
視界に広がる景色には白が映えている。
(雪が積もっている中で、山なんて行ってどうするんだろう? まさか、登るぞ。とか言うんじゃないよね?)
私は、密かに顔を引きつらせた。
私達が降り立ったのは、毛利さんが言ったように山の麓だった。
イメージしてた山の入り口とはまるで違う。木々が生えていると思ってたけど、高木一本もない。枯れ果てたような低木が数本まばらにあるだけだ。
私は山を見上げた。この山は巨大な岩石って感じ。でも、その代わりといってはなんだけど、山の後ろには広大な森が広がっていた。
「こっちだ」
毛利さんが短く言って、ついてくるように促した。あとについて行くと、山の側面に洞窟が出来ていた。
毛利さんは振り返って、金色の瞳を向けた。
先に入るように言われた気がして、私は洞窟をそっと覗いた。
「わあ……!」
私は、思わぬ風景に声を上げた。
幻想的な空間だった。
洞窟が氷付けになっていて、青色に輝いていた。
どこから光が来ているのか分からないけど、光が乱反射して、洞窟全体がキラキラと輝いている。
そして、その中を藍色の小さなドラゴンが飛び交っていた。
「すごい!」
私は感動して毛利さんを振り返った。
思わず心臓が跳ねた。
毛利さんは、優しい表情で私を見つめていた。やわらかな目尻、うるんだ金色の瞳。
(全身が熱い)
ハッとして、視線から逃れる。
私はドキドキする胸を両手で押さえつけた。
そこに、
「だれ?」
無邪気な声が上がって、私は洞窟内を振り返った。
洞窟の奥には、七歳くらいの少年がいた。
少年はタカタカと私達のところへ駆けてきた。