私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

「おねえさんたち、だぁれ?」
「こんにちは。私達はね――」
「こいびとどうしなの?」
「え?」

 無垢な瞳で尋ねる少年を見ながら、私はちょっと固まってしまった。
(恋人って、そんなわけないじゃん。でも……)
 毛利さんが今、どんな表情なのか気になった。

(もしかして、もしかしたら、私と同じで戸惑ったり、ちょっと嬉しかったり……。な、わけないか。どうせいつもの無表情よ)
 振り返ると、やっぱり毛利さんは無表情だった。

 私は静かにため息をつく。
(まあ、そうだろうと思ってたけど!)
 少年は、無垢な瞳のまま私達を見つめた。

「お姉さんたちは、別に恋人同士じゃないんだよ」
「じゃあ、なに?」
「ん~。なんだろう?」

 少し考え込んでしまった。
 どんな関係かと聞かれると、返答に困ってしまう。
 敵同士ってわけでもないし、友達ってわけでもない。
 私達の関係って、なんだろう?

「そんな事はどうでも良い」
 私の少し後ろで黙っていた毛利さんが一蹴するように呟いた。
(どうでも良い、ね)

 この人にとって、どうでも良くないことってなんなんだろう。
 この人にとって、どうでも良くない人って、誰なんだろう。
(なんか、すごく苦しい)
 私は彼にとって、どうでも良い人なのかな。
(もしも、魔王がいなかったら、毛利さんは私をそばにおいてた?)

「おいてないんだろうな……」
 誰にも聞こえないくらいに低声で、独りごちた。
 私、なんでこんなに寂しいんだろう。

「あ! おかあさん!」
 少年の嬉々とした叫びに、私は我に帰った。

 少年は、洞窟の奥からやってきた女性に走り寄って行った。女性は少年を抱きしめて、ぺこりと軽く会釈をした。
 それに応えたのは、毛利さんだった。
(知り合い?)
 怪訝に思っていると、女性が少年を連れて近寄ってきた。
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