私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
「お久しぶりです。毛利様」
「勝手に入ってすまぬな。氷結竜(ラピスドラゴン)を見せてもらっていた。お前の子供だったのか」
「はい。挨拶なさい」
女性は、少年に促したけど、少年は女性の影に隠れてしまった。
「すみません」
「いや」
「あの、お知り合いですか?」
おずおずと尋ねると、女性と目が合って、彼女はにこやかに笑った。
「毛利様が農商務省の大臣だったときに、お世話になったんですよ」
「のうしょうむしょう?」
聞き慣れない言葉に、首を傾げると、後ろで小さなため息が聞こえた。
「農商務省は、農業、林業、水産業、商工業を所管する官庁の事だ」
所管ってなんだろう? 頭を捻ったけど、聞くのは良そう。
また呆れられるだけだもん。
私は、話題を続けた。
「そういえば、商業に関する部署にいたことがあるって言ってましたね」
「まあな」
「その時に、地下街をお造りになり、それが認められて大臣になったのですよね」
「へえ。そうなんですか」
「それが直結したわけではない。取っ掛かりがそれだっただけだ」
「ふ~ん」
(もっと自慢しても良い話なのに)
考えてみれば、毛利さんって、全然自慢しないよなぁ。
(クロちゃんだったら、自慢しまくるだろうな)
クロちゃんの自慢気な顔が浮かんで、なんだか頬がほころんだ。
(そういえば、クロちゃんもアニキも、風間さんも雪村くんも、元気にしてるのかな?)
私は、幻想的な洞窟を見ながら、なんだか懐かしい気持ちになった。
そこに、
「毛利様が農商務省の大臣になられて、氷結竜の輸出を始められて、私共の生活も随分と楽になったんですよ」
と、女性が話を戻した。
「へえ、そうなんですか――ん? 私共の生活って?」
「私共は、氷結竜の飼育をしてるんです」
「それって、足運屋みたいな?」
「ええ。貸し借りはしませんが、国外に輸出をしてるんです。もちろん国内にも売ってますが。私共は、昔から氷結竜と供に暮らしてたんです。何故そうしているのかは知りませんが、代々そうしてきました。この国では昔から地下がありましたから、夏場でも氷結竜がいなくても、食べ物の保存には特には困らなかったので、昔は、半年に一匹売れれば良い方だったのですが、毛利様が国外に輸出する方針を打ち出して下さってからは、氷結竜達の世話もしやすくなったし、生活も楽になったんですよ」
「へえ……」
私はちらりと毛利さんを見た。
毛利さんって、やっぱすごい人なんだ。