私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

「当時は頭の固い者もいましたから、毛利様がわざわざ説得に来て下さって」
「そうなんですか?」
「ええ。淡々となさっていましたが、その中にも情熱が見て取れたって、うちの父が申しておりました」

 私は全然分からなかったんですけど――と、茶目っ気たっぷりに、女性は私に耳打ちした。
 私は思わず苦笑して、女性とくすっと笑い合った。

「俺の話はもう良い。――帰るぞ」
 突然、毛利さんが不機嫌に言った。
 もしかして、照れてる?

「もしかして、毛利さんが自慢しないのって、照れるからですか?」
 つい、思いつきを口走ったら、ギロリと睨まれてしまった。
(図星かな?)

 私はにんまりと笑み返した。
 私達は、親子に挨拶をして踵を返した。すると、後ろから疑問に満ちた声が聞こえてきた。

「ねえ、おかあさん。ほんとうにおねえちゃんたちって、こいびとどうしじゃないの?」
「え? そう仰ってたならそうなんじゃない?」
「え~。でもさ、おにいさん。おとうさんがおかあさんを見るときみたいな目してたよ。チューするときみたいなふんいきだったよ」
「こら! そんな事言わないの!」

 思わず、背後の慌てふためく声に耳を済ませた。
(ふ、振り向けない)
 驚きと戸惑いで、私は顔を掌で覆った。
(チューって、まさかそんな)

 気恥ずかしさの中で、私は毛利さんを覗き見た。
 毛利さんはどこ吹く風。さっきの声なんか聞こえなかったみたい。
 相変わらずの能面だった。

(なによ。もう)
 はいはい、私は眼中にないってことね。イイですよ~。私はどうせ、色気ゼロの小娘ですからぁっ!
――なんて、いじけて見たものの、なんなの、この、哀しさは!

「おい」
「え?」
 毛利さんが不意に振り返った。
「この先に泉がある。寄って行くか?」
「……はい」

 なんか、気を使われた?
 ゴーイングマイウェイな毛利さんにしては、めずらしい。
 なんて思いながらも、私はなんだか嬉しかった。
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