私の中におっさん（魔王）がいる。～毛利の章～

　　＊＊　＊

　夜中、何故かふと目を覚ました。
　ちょっと緊張してたのか、眠りが浅かったのかも。
「あれ？」
　隣のベッドに寝ているはずの柳くんの姿が無い。
　眠気眼をこすって、部屋を見回した。人の気配はない。
　もしかして、トイレに行くのに部屋から出してもらったのかも。
　私はそう納得して、またすぐに眠りに着いた。

　＊　＊　＊

　翌朝、柳くんに昨日いなかった理由を尋ねると、やっぱりトイレに行っていたみたいだ。
　怠輪王。シャルシャ王に謁見することなく、そのまま私達は見張り付きで、騎乗翼竜に乗せられた。

　保護してくれた事のお礼を一言いいたかったんだけど、それは叶いそうもない。
　柳くんとは別々の騎乗翼竜に乗り、それぞれの後ろに兵士が乗った。

　私の後ろに乗った兵士は、厳つくて、目つきが怖い。
　一方で、柳くんの後ろに乗った兵士は、ガタイは良いけど、優しそうな顔つきの男性だった。
（私もあっちが良よかったよ！）

　羨ましげに見ていると、優しげな兵士が持っている鳥かごが目に入った。
　その鳥は、オウムくらいの大きさの鳥で、灰色と茶色のまだら模様の羽毛。くちばしと爪の鋭さから、猛禽類だと思う。
　優しげな兵士は、その鳥を近づいてきた別の兵士に渡した。

「あの鳥は？」
　疑問が口をついて出て、はっとして振り返ったけど、厳つい兵士は責めるでもなく、普通に答えてくれた。

　あの鳥は、磁鳥（じちょう）と言って、紅海に発生する磁気の影響を受けずに飛んでいけるらしい。
　磁鳥がいると、その船や騎乗翼竜も影響を受けずに進んでいけるんだとか。その理由としては、磁鳥が磁力を食べるためだと言われているんだって。

　だから、海を渡るときには、数十匹連れていくんだそうだ。
　磁鳥は、怠輪にしか存在しない鳥らしい。
　厳つい兵士は、話した感じでは、案外人が良さそうだった。

　＊　＊　＊

　私達は三日かけて、町を移動し、千葉の蛙蘇（あそ）という港町と交流している港町、センテールに着いた。
　ちなみに、交流しているのは、蛙蘇とセンテールだけらしい。
　私達は、商船に乗せられることになった。
　軍艦だと、送って行った時に面倒なんだそうだ。もちろん、兵士も一緒に乗船する。

「でもさ、本当になんのお咎めもなしに帰って良いのかな？」
　私の横で待機している柳くんに尋ねると、柳くんは大きな目を私に向けた。

「そうですね。帰っていいって言うんだから良いんじゃないですか？」
「う……ん。そうなんだけどさ」
　言いよどんでいたら、
「……怠輪王は、この件に関わりたくないんですよ」
　えらく真面目な表情で答えられてしまった。

　たしかにそう言ってたけど、故意ではないとはいえ自国に侵入されたんだから、もっと根掘り葉掘り聞かれても良いようなもんだけど。
　あっ。でも、私が寝てる間に、柳くんは色々訊かれたんだっけ。
殆ど答えなかったらしいけど。

「乗れ」
　乗船準備が整ったのか、私達は乗船を促された。
　前後左右を見回しても、厳つい体つきと恐持ての兵士だらけ。
　ここから一日しないで蛙蘇に着くらしいこの船旅は、楽しいものになるとは、お世辞にも言えなさそうだ。