私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
「最低!」
私は部屋の中で悪態づいて膝を丸めた。
すると、障子が開いて、
「やっぱり、ここでしたか」
ほっとしたような表情の原さんが顔を覗かせた。
「失礼しますよ」
言いながら、部屋へ入ってきた原さんは、私の隣に胡坐をかいて座った。
「怒ってますか?」
「当たり前じゃないですか!」
語調をきつくした私に、原さんは苦笑を返した。
「あんなに冷たい人だと思わなかった! 最低です! 国民が困ってるのに、これが政治のトップのすることですか!?」
怒りが収まらなくて悪態づいた私を、原さんは真剣で、どこか咎めるような目つきで私を見据えた。
「……なんですか?」
若干の不安と、不快感で訊くと、原さんはいつになく真剣な表情をした。
「あなたは知らないでしょうが、氷結竜の輸出は民営ではなく、国営です」
「それが、なにか?」
訝しがった私から視線を逸らして、原さんは遠い目をした。
「国が受け持っての事業ですよ。輸出した後に、死滅したらどうします? 輸出した氷結竜が死ぬならまだ良い。でも、氷結竜だけがかかる病ではないんですよ」
そう言われて、はっとした。
そっか。水竜全般にかかる病だっけ。
「輸出した国で、感染が拡大し、他のドラゴンに被害が及んだらどうします。それこそ、莫大な謝罪金がかかるでしょう。それだけならまだ良い。ですが、それがきっかけで、戦争にだってなるかも知れない」
「まさか、そんな」
(そんなことで、戦争になるなんてありえないでしょ)
そう思った私に、原さんはなおも真剣な瞳を向けた。
「何故そう言いきれます? 弱体化したとはいえ、好戦的な国はまだあるのですよ」
原さんの瞳に、ひやりとした。
「十年前のことを言おうとして、コウに口止めされたのを覚えてますか?」
「城の帰りの、地下での?」
「はい」
原さんは静かに頷いて、体制を崩した。膝を折って、正座に変えた。私もなんとなく、つられて正座に変える。
「十年前、毛利様は左大臣でした」