私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
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十年前、かねてより仲が悪かった爛と千葉だったけど、毛利様が左大臣となってから少しずつではあるけれど仲が改善されていた。
そんなある日、千葉を旅行中の爛の官吏が殺される事件が起きました。
毛利様は徹底的に調べるように言いつけ、警察もそのように動いた。
でも、犯人は見つからなかった。
その犯行のせいで、毛利様が苦労して外交した事も白紙に戻されようとしていました。
その矢先、今度は爛で外交に行っていた毛利様一派の官吏が殺される事件が起きた。
後から分かった事だけど、どちらの殺人も、毛利様を良く思わない右大臣が、毛利様を蹴落とそうとした事でした。
史上最年少で左大臣になり、その頃もう既に王の絶大な信頼を得ていた毛利様が、疎ましくないはずはなかったわけです。
爛と揉め事が起きれば、毛利様の手柄はなくなってしまうし、毛利様一派の有力な手足を消せる。
右大臣にしてみれば、一石二鳥だったんだろう。
でも、右大臣はちょっと浅はかだった。
殺された官吏が、爛にとって貴重な人物だったという事もあるんだろう。
爛は、千葉に謝罪と責任の追及をしてきた。
すっぱり言えば、膨大な慰謝料と、国境の拠点となる町を寄こせと言ってきた。
これに激怒したのは、右大臣だった。
彼は、町はともかくとして、法外な慰謝料を支払う事を頑として受け入れなかった。
それとは反対に、毛利様は、ここまで来てしまったからには、町を手放す事は避け、慰謝料を加算したとしても金で済ませられれば、それもやむなしとした。だが、それは最終手段として取っておき、今は外交でなんとか治めるべきだと進言した。
意見が対立した二人に、肝心な王は狼狽した。
そしてあろう事か、
「主らに任せる!」
と、投げ出した。
そんな矢先だ。
更なるトラブルがやってきた。
爛が、岐附に同盟条約を申し出たんです。
これに焦りに焦ったのは、他ならぬ王でした。
そして、大事になってしまった右大臣もまた焦っていました。
右大臣は、犯人をでっち上げる事もできましたが、そうはしなかった。
犯人が千葉から出てしまえば、慰謝料を支払わなければならなくなるからです。なので、右大臣は王を唆す事にしたんです。
戦争になっても、勝てさえすれば国は土地を広げ潤います。
右大臣にしてみれば、自分が戦うわけでもなし、兵士はしょせんは使い捨ての駒と同じだったんでしょう。
戦地になるであろう土地に住んでいる国民ですら、右大臣には見えていないものです。
透明なようであり、小さな地を這う虫のようなもの。そんな感覚だったのでしょう。
だから、右大臣は王を唆し、戦争を開始するように言ったのです。
先手を打てと唆した。
これを、毛利様が止めないはずがありません。
毛利様は王を説得しました。
爛は混乱しているだけだ。岐附と手を結んだのは用心と、こちら側に要望を通させるための策であり、本当に戦争をしかけたいわけではない。
そう説得しました。
王は揺れました。
しかし、優柔不断な王の事、いつ、右大臣に転ぶとも分からない。
そこで毛利様は、爛へおもむき、外交交渉により戦争を回避させようとしました。
もちろん、右大臣が動けぬよう手を打っていましたが、如何せんまだ毛利様も若い。
毛利様一派から裏切り者が湧いて出て、毛利様の留守中に王を説得。王は、戦争を高らかに――とは言わないまでも、宣言してしまったのです。
こうして、長年に渡る戦争の火蓋が切って落とされました。