私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
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「数年後に、右大臣の罪を暴き蹴落としてから、毛利様は宰相という地位を作り、右大臣、左大臣制度を廃止したんです。言いたい事、分かっていただけましたか?」
問われて、私は首を横に振った。
「戦争が始まった理由は分かりました。でも、それと今回と、なんの関係があるんですか?」
「戦争は、小さなきっかけで、王によって起こされるんですよ」
原さんは真剣に言って、薄く笑んだ。
「王の周りの人間が起こさせる事もあります。千葉がそうでした。でも、決めるのは王です。そして、ウチの王様は自我がありません。どこにどうでも転びます。周り次第で」
それが、怠惰王の字の由来です――と呟いて、
「他の国の王がそうだとは言いません。でも、少しの欲や少しの恐怖、少しのきっかけで、戦争は起きます。分かりますか? 千葉は、二度と同じ過ちを繰り返してはいけないのです。どんな火種も見逃してはいけないのです」
私はなんだか、胸が詰まる思いがした。だけど――。
「だけど、国民を見捨てるんですか? 困っているのに、手を差し伸べてくれないんですか?」
「毛利様が、そんな人だと思っているんですか?」
真剣に問われて、胸がざわついた。
「あの人はたまに口が悪いし、厳しい人で、何を考えてるのか読み取らせませんが、戦争を回避しようと駆けずり回ったり、街に人を集めようと地下街を造ったり、国民が万が一の時に避難が出来るように道を整備したりする人ですよ。本当に、冷酷魔人ですか?」
諭すように問われて、私は自分の顔が崩れるのを感じた。
「ごめんなさい。つい、ムキになっちゃっただけなんです。本当は、大嫌いじゃありません!」
泣き出した私に、原さんは微笑みかけた。
「それは、本人に言ってあげましょうね」