私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
第十二章・懐かしい訪問者
春になってから、私達は冬の住処を離れた。
城の敷地内にある、毛利さんの屋敷に移っている。
その屋敷は、本殿のお城と同じように外壁は白銀に塗られていて、瓦屋根は、黒く輝いている。
屋敷の形は、一般的な古き良き日本家屋という感じで、白川郷の家のようではなかった。
その日は穏やかな春の日だった。
冬があけてから、一週間で白一色だった景色が、緑に変わっている。庭にも、色とりどりの花が咲き始めた。そんな矢先。
突如として、凶報が舞い込んできた。
私はコウさんと、縁側に座ってお茶を飲んでいた。
珍しく午前中に帰ってきた毛利さんも、これまた珍しく、お茶の席に加わろうとしていた。
「どうぞ」
私がにんまりと笑みながら縁側を叩くと、毛利さんはちょっと照れたのか、僅かに眉を跳ね上げた。
毛利さんが所作正しく座ったときだった。
「ピュイー」
甲高い鳴き声が上空から響き、一匹の小さなドラゴンが羽音を響かせながら降りてきた。
そのドラゴンは、全長四十センチくらいの翼竜で、灰色で、岩のようにゴツゴツとした肌のドラゴンだった。
「伝使竜か」
「伝使竜?」
「伝使竜は、遠く離れた場所や人に手紙を送る事が出来るドラゴンです」
毛利さんが呟いたのだけど、答えてくれたのはコウさんだった。
毛利さんは庭に降り立ったドラゴンに近づいて、括り付けてあった巻物を取った。
そのまま広げて、目線だけ動かして読んでいると、途端に振り返った。少しだけ眉を顰めて、私を見据えたあと、視線をコウさんに移した。
(なんだろう?)
「コウ」
「はい?」
毛利さんはコウさんの名を呼んで、そのままコウさんに巻物を渡した。
そして、縁側に上がって歩き出した。
「読み終えたら城へ来い」
振向きもせずに歩き去る毛利さんを、コウさんと私は怪訝な表情で見送った。
コウさんはその後すぐに巻物に視線を移した。
「……これは!」
「どうしたんですか?」
驚いた表情のまま巻物から眼を逸らし、私を見据えた。浮かない表情のコウさんに、嫌な予感がした。
「美章国に先日、功歩軍が攻め入ったそうです」
「え?」
「功歩はすぐに兵を退いたみたいですが、美章軍に被害が多くもたらされたみたいです」
「それって……戦争が始まったってことですか?」
「言い切れませんが……おそらくは」
コウさんは言いよどんで、
「それにしても……差出人は誰なんでしょう?」
と、首を傾げた。
「名前書いてないんですか?」
「ええ。柳の木の絵があるだけで、他には」
――柳の木……。
もしかしたら、柳くん?
ふと柳くんが浮かんだけど、私の心に長く居座ったのは、言い知れぬ不安だった。
戦争がまた、始まるかも知れない。
不安と恐怖を抱いて、青く澄み渡った空を見上げた。