私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
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私は雪村くんを応接間に通した。
ローテーブルを挟んで座布団を敷いて、向かい合って座った。
行きに、侍女さんにお茶とお菓子を頼んだので、すぐにお茶とお菓子が用意された。
「毛利さんとは、どうなの?」
「え?」
唐突な質問に、持とうとしていた湯のみを落としそうになった。
「どうって?」
「一緒に暮らしてるわけだろ。なんか、あったかなって」
「え……と、一応、付き合ってる、のかな?」
「え!?」
照れて口ごもった私に、雪村くんは驚いた瞳を向けた。
そんなに驚かなくても……。でも、そっか。
「あんた達みたいなのに恋なんかしないって、タンカ切ったんだもんね。驚くよね……むしろ、軽蔑した?」
「そんな事ないよ! ただ、やっぱりショックだっただけで! ――あっ、いや! なんでも」
苦笑した私に、雪村くんは否定してくれた。
最後の方はゴニョゴニョと口ごもってたけど。
「ショック?」
「ああ、うん。忘れて!」
何がショックだったんだろう? と、尋ねたかったんだけど、雪村くんは激しく手を振って教えてくれなかった。
「それで、どうなの? その、付き合っててさ」
雪村くんは話を切り替えるように尋ねた。
でも、その意味をいまいち図り切れない。
「う~ん。どうって言われてもなぁ」
首を傾けた私に、雪村くんは言いづらそうに、
「その、いわゆるその、ラブラブ……なの?」
「ゲホ! ゴホ!」
唾が変なとこに入った。
あわあわと狼狽している雪村くんをしり目に、私はしばらくせき込んだ。
「……んんっ! えっと、そうだね。そう、言えるかも」
顔に火が昇るのを感じる。
自分からラブラブだって言うのって、なんか、恥ずかしいな。
「毛利さんは、本当にキミの事好きでいてくれてるのか?」
雪村くんの表情が真剣になった。
そっか。魔王の件があるから、心配してくれたんだ。
もともと、雪村くんは風間さんに言われてしょうがなく倭和に行ったって言ってたし、あの場で唯一、魔王のことには興味なさそうだったもんね。
友達として心配してくれたんだ。
「ありがとう。でも、そうみたい。毛利さんは、魔王関係なく、私を好きだって思ってくれてると思うんだ。元々、毛利さんが魔王が欲しかったのは、他国や危険な人に取られないようにするためだったから」
「……そうなんだな。そっか」
雪村くんは顔を伏せた。
そして、ほっとした表情で顔を上げた。
「それは良かったよ」
心底ほっとした声音で言って、胸をなでおろした。そのあと、
「まあ、残念だけどな」
ぽつりと呟いて、雪村くんは伏目がちに笑った。
(残念?)
小首を傾げてしまったけど、でも、心配してくれる人がいることがすごく嬉しくて、私は温かい気持ちになった。