私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
「彼女に言うのか?」
雪村の心配そうな声音に、毛利はゆりを見送った視線を、雪村に移した。
「ああ」
「でも、不安にさせちゃわないか?」
「あやつ自身の事だ。知っていて当然だろう。それに、いざと言う時、知っていた方が対処のしようがある」
「……そうか」
浮かない表情で頷いた雪村だったが、少し考えたあと納得した表情を見せた。
「それもそうだな」
「話は以上か?」
「うん」
雪村の返事を聞いて、毛利が立ち上がったときだった。
「あ!」
雪村が突如声を上げた。
その声音は焦燥と驚きに満ちていた。
毛利が怪訝な瞳を向けた瞬間、雪村は毛利を仰ぎ見た。
「マズイ。移動術が使われたみたいだ」
「移動術?」
毛利は訝しがって首を傾げたが、次の瞬間思い当たってハッとした。
移動術とは、三条一族の能力者の中でも、最高峰の『呪術師』が使えるものだった。
倭和の屋敷で使われた転移の札と同じ系統の物だ。
「谷中さんが危ない」
雪村は血の気の引いた顔で呟き、毛利はその言葉が終わる直前に駆け出した。