私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
「信じられない。ただでさえ時間がないって言うのに、説明するなんて。最初からその辺の兵士捕まえて吐かせた方が速かったのに。ゆりちゃんに何かあったら責任とって下さいね。黒田様」
「アッタマ悪い! そんな事してみろよ。後で国同士の問題になるだろ。ま、ぼくには関係ないけど」
美しい女性――もとい月鵬の追及に、少年――もとい、黒田は呆れ返りつつ、月鵬をバカにした。
彼らは今、城の階段を駆け上がりながら、毛利の自宅に向って走っていた。
彼らの後ろには、コウと原が半信半疑な顔つきでついてきていた。
そんな中、月鵬は僅かに眉を顰めて、冷静に反撃した。
「毛利様に無事事情を説明できれば何も問題はなかったはずです。問題にすらなりませんよ。この国を仕切ってるのは王ではなく彼なんですから」
「ぼくはあいつに借りなんか作るのはごめんだね。これから恩着せに行こうってのにチャラにしてどうすんの?」
「その利己主義のせいでゆりちゃんが手遅れになったら、あなたのせいですからね!」
「だからなんでぼくのせいなわけ? その時は彼女を守りきれなかった毛利の責任でしょ!」
いつの間にかヒートアップした二人を横目に、白髪の男、もとい花野井は、物珍しそうな表情をしていた。
「月鵬が俺ら以外にすましてないなんて、珍しいな」
「あの二人、美章で色々あったみたいっすからね」
「ああ。それでか」
翼の説明に納得したとき、黒田が侮蔑するように言った。
「大体もう何日経ってると思ってんだよ」
声音ではそうしたが、心根では悲痛な思いがあった。
「そうだな」
花野井は哀しげに呟いた。そして、目線を月鵬へと移す。
「月鵬。嬢ちゃんはもう助かる見込みはねえ。奴を止めることだけ考えろ」
「……」
月鵬は花野井を冷たい瞳で一瞥して、加速した。
「お前ら、何かあったの?」
月鵬のスピードについて行く前に、黒田は花野井を振り返った。
「まあな。ちょっと、秘密にしてた事がバレただけだ」
花野井は苦笑を返し、黒田を抜いて行った。
「浮気でもしたんすかね?」
翼のからかいには応えずに、黒田は花野井の背を見やった。
(やつらの仲がどうだろうと、どうでも良い)
「でも、彼女を取り戻す方法はある。……あいつに頼むのは癪に障るけど」
けれどそれをすれば、黒田の望むものは手に入らなくなる。
二つの選択肢を前に、黒田は揺れていた。