私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

「我の能力は戦闘向きとは言えなかったが、そこそこ役には立っておったわ。だが、その能力ゆえに、我は今ここにおる。能力は、探知能力なのだ」
「探知?」
「うむ。多数を探知する事は苦手であったが、誰か一人を探知する事にかけては、右に出る者はおらんかった。全世界、どこにおってもすぐに分かる」
「へえ。すごいですね」

 素直に驚く私に気を良くしたのか、白猿さんは咳払いをして、更に胸を張った。でも、すぐに表情を曇らせた。

「この優れた能力故、我は魔王の器――つまり、お主を探すために倭和で捕らえられたのだ」
「え?」
白猿さんは、目を見開く私を真っ直ぐに見据えた。

「肉体は倭和にて死んでおったが、魂だけが術によって体に縛り付けられておった。だがしかし、魔王が解き放たれた瞬間、我は魔王に吸収されたのだ。今のお主のようにな」
「……え?」
(私が、魔王に吸収された?)

 血の気が引く。

「まさか……」
「うむ。お主はもう、死んでおる」

――死んで……?

 唐突に、脳裏に毛利さんの顔が浮かんだ。
 泣き出しそうな、悲痛な瞳。
 ……痛かった感覚。

「思い出したか。やけにゆっくりに感じられただろう?」
「……はい」
「だが、実際は一瞬であったぞ。痛みもなかったであろう?」
「はい。最初だけ……」

 刃物が抜かれた、あの瞬間だけ、内臓を持っていかれそうな、引き攣れた痛みが一瞬走った。
 痛みはそれだけだった。

「あの、毛利さんはどうなりました?」

 私が死んでしまった後、毛利さんはどうしただろう?
 落ち込んでないだろうか?
 ちゃんと、生活してるだろうか?

「実際に見てみるが良かろうな」
「え?」

 白猿さんは、深く頷いて、手を広げた。
 すると、何もない空間に目の形のような円が出来て、それが大きく広がった。そこに、映像が映し出された。
 それは、私の部屋だった。

「これは?」
「これは、彼女の能力じゃ」
「彼女?」

 首を傾げた途端、どこからともなく女性が現れた。
 前髪を上げて、髪を一本に縛った女性で、きりっとした目つきをしている。
 彼女は一瞬だけ現れて、薄く微笑んですぐに消えた。

「今のは?」
 うろたえている私の肩を掴んで、宥め、白猿さんは両手をばっと広げた。

「この中には、二千人の能力者と、三千人の非能力者がおる。彼女はその中の一人じゃ。千里眼の能力者で、全世界どこでも見通せるぞ。このビジョンは、彼女が見ているものじゃ」
「えっと……じゃあ、その人達は今どこに?」
「どこにでもおるよ。この空間に溶け込んでおるのじゃから。彼女は我々よりずっと前からここにおるんだよ。というより、我とお主以外はみんな、六百五十年前の人間じゃ」
「ええ!?」

――六百五十年前!? 

「驚くほどでもない。人間がこの魔王と言われるものを創り出したのが、その時期じゃからな。もっとも我も、魔王に吸収されてから知ったのだが」
「創った?」

 私の質問と同時に、映像の中から音が聞こえた。
 障子を閉める音だった。
 私は、はっとして映像を振り返った。
 映像は、障子の方向へ向い、薄暗い部屋の中に愛しい顔が映し出された。
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