私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
『でもその前に、柳くんには出て行ってもらわなくちゃならないんだ。悪いけど、邪魔されたくないし、不確実でもあるんだよ』
雪村くんは遠慮がちに言う。
毛利さんは柳くんを一瞥して、柳くんは強い瞳で毛利さんを見返した。毛利さんはそれに従ったみたいに、小さく頷く。
『それは出来ない』
『そっか……。でも――』
『柳とは契約がある。だが、柳は何もしない。いるだけだ。だから、教えてくれ』
残念そうに言った雪村くんを遮って、毛利さんはそう言った。
冷静な声音の中に、必死さが窺えて、不謹慎にも嬉しさがこみ上げてくる。
『その契約ってなに?』
不信がって訊いた雪村くんに答えたのは、毛利さんではなく柳くんだった。
『僕は、竜王機関の人間です』
『竜王機関って、あの?』
雪村くんはどこか疑うように訊いた。
それを納得させるように、柳くんは深く頷いて見せた。
「竜王機関?」
映像を見ながら首を傾げた私に、白猿さんが教えてくれた。
「竜王機関とは、歴史を記す事に命を賭ける者達で構成される秘密組織じゃ。一般人には噂話でしかないが、実際は歴史に名を残しそうな人物に密かに接近し、その生涯を記録しておるそうじゃ。我のところにも、一人来とったわ」
「そうなんですか?」
「そうじゃ。じゃが、捕まりでもしないかぎり、竜王機関の人間が機関の名を出す事はないんじゃがな。ましてや、誰かと契約などしないはずじゃが……」
白猿さんは顎に手を当てて首を傾げた。
私は納得と疑問まじりに、映像に目線を移した。