私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 結局私は、ポンチョ型の薄ピンクのコートを選んだ。
 毛利さんに柳くんのも私が選べと言われたので、柳くんに似合いそうな浅葱色のコートを選んだ。
 
 マフラーに似た布は、正式名称を寒空(サビスク)という。
 これも蛮天南から出来ているんだって。
 寒空もコートとおそろいの色にした。もちろん柳くんのも。
 
 待ち合わせ場所で合流して、私達は蛙蘇の町を飛び立った。
 ラングルは二匹で、一匹は柳くん。もう一匹に、私と毛利さんが乗り込んだ。
 私はラングルを乗りこなせないので、二人乗りなのは仕方ない。
 でも、柳くんとのが、気楽で良かったな。
 
(あっ、でも、どっちもどっちか)
 良い匂いですね。お姉さん! とか、ハキハキ言われても困っちゃうし。

 * * *

 私達は、町の一キロ先で、ラングルから降りて、ラングルを牽きながら歩いた。
 なんでも、千葉では騎乗翼竜に乗ったまま町に近づくと、有無を言わさず迎撃されるらしい。
 何事も無く次の町、藤埜(ふじの)へと着いて、関所で毛利さんが木の板を見せると、憲兵はすごく驚いて、媚びへつらうように私達を通した。

 蛙蘇を出た時も、憲兵はこんな感じだった。
 木板はパスポートなのかと思ってたんだけど、他の人のは特に驚いたりしてなかった。
(毛利さんの木板には、何が書かれてるんだろう?)

 藤埜の町並みは、やっぱり江戸村と変わらない。
 ただ、蛙蘇が黒い建築物だったのに対し、こちらは普通の木材だった。
 蛙蘇と比べると、幾分か静かな町だ。
 それでも活気があるのに変わりなく、私達は人の熱気に押されながら、宿屋を探した。
 宿屋に着くと、毛利さんだけ別の部屋で、私と柳くんは一緒の部屋だった。
 普通女の子だけ別じゃないの? と文句を言ったら、「襲われても良いならそうしろ」と、毛利さんに冷たく言われてしまった。

 柳くんが補足してくれたんだけど、女性が一人で部屋に泊まることはまずないんだそうだ。
 男性だって、よほど腕に自信がなければ、一人旅はしないそうだ。

 治安が安定してきているとは言え、まだまだ物騒な千葉国でそんなことをすれば、他の客に襲ってくださいと言っているようなものですよ。と、ハキハキとした口調で言われてしまった。
 それでも、岐附や爛に比べれば、全然マシだそうだ。

 こういう時に、自分は安全な国にいたんだと思い知らされる。
(でも、一人で泊まるってことは、毛利さんは腕に自信があるってことだよね。なんとなく、頼もしいような気がしないでもないじゃない?)と、張らなくても良い意地を張ってしまった。もちろん、心の中で。

 しばらく部屋でまどろんでいると、食事が出された。
 千葉の食事は、日本食と遜色が無い。
 味噌汁代わりの汁物があるから、屋敷で食べてたのは、千葉の料理だったんだと、この時知った。
 でも、岐附も同じような食べ物があるんだそうだ。

 そういえば、屋敷で料理を作ってくれていたのは、月鵬さんと柳くんだったっけ。だから、この系統の料理が出てきてたのかも。
 翼さんと結さんには悪いけど、あの二人が料理を作る画は浮かばないもんなぁ。
 その日は食事を済ませ、早々に、綺麗な布団で就寝した。
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