私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
* * *
雪村くんは、両手をかざして深く息を吐いた。
呪符を顔の前に持ってきて、力を込めた。
呪文めいた言葉を発すると、雪村くんの足元から光があふれ出し、呪符に向って集まっていく。
呪符が光を吸収し、鈍い紫色に光ると、それを毛利さんの前に差し出した。
『これを、彼女の中に入れてくれ。胸の中心から入れるんだ』
毛利さんは静かに頷いた。
そして、私の胸の中心に呪符を置くようにすると、そのまま呪符を持った手ごと、私の中へするすると入っていく。
「どうなってるの?」
驚いている私の横で、白猿さんは呟いた。
「我らには、どうする事もできんな」
その声音は歯痒さが感じられて、私は思わず白猿さんを振り返った。白猿さんは、悲痛な面持ちで映像を見つめている。
そのとき、映像から強い光りが発せられて、私は映像へ目線を戻した。
私の体が宙へ浮き、体の中から光の塊が顔を覗かせていた。
(なんか、イヤな感じ……)
不安が渦を成して襲ってくる。
そのとき、障子が乱暴に開かれた。
驚いた表情で部屋の中の光景に見入っていたのは、懐かしい顔ぶれだった。
月鵬さんに、クロちゃんに、アニキに、翼さん。コウさんと原さんもいる。
(みんな!)
『そんな……遅かった』
月鵬さんが、絶望したように呟いて、その場に座り込んだ。
(月鵬さん?)
『なに座り込んでんだよ! おい! 彼女の中から呪符を取り出せ!』
クロちゃんが月鵬さんを叱咤して、毛利さんに向き直って叫んで走り出した。
『隊長!』
翼さんがクロちゃんの後を追う。それを見て、アニキも駆け出そうとした、そのとき、私の体の中から、光の塊が抜け出し、私の体は落下した。毛利さんが、床に落ちる前に私の体を抱きかかえる。
その瞬間、光の塊は眩い光を発した。
(まぶしい!)
思わず目を覆う。光は一瞬で消え去った。目を開けると、そこには光の塊はなかった。雪村くんの姿も消えていた。
『どこに行った?』
アニキが呟いて、辺りを見回す。