私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 映像はいったん途切れ、場面が変わった。
 空が映し出され、青の中に、雪村くんが佇んでいた。
 その手ひらの上には、光の塊――魔王があった。
 雪村くんは空中に浮きながら、何かを待っているみたいだった。

『いた!』

 下から声が聞こえ、映像は下へ向いた。
 そこにいたのはクロちゃんと翼さんとアニキだった。そこに毛利さんがやってきて、少し遅れて月鵬さんが合流した。

 雪村くんは空ろな瞳のまま、彼らを見据えた。
 そこに、耳を劈くような音が響き渡った。

「――ウォオオ!」

 頭の神経にくるような、地鳴りのような音。
 映像からの音声なのに、かなりの大音量で、私は耳を塞いだ。
 それを直接訊いている毛利さん達は、耳を塞いでうずくまった。

(聞き覚えがある、嫌な音……。そうだ、倭和で聞いた音と同じ音だ)

 大気を揺るがす羽音が響いてきた。
 雪村くんの後ろに突如現れたそれは、醜く醜悪な姿をしていた。
 三つ首の黒いドラゴン。

「ウォオオ!」

 ドラゴンは恐ろしく獰猛な牙をむき出しにして、吠えた。
 一声吠えただけなのに、耳の神経がやられそうになる。

「ついに、アジダハーカが目覚めてしまった」

 絶望に滲むように搾り出された声音は、白い空間に吸収されて消えた。
 白猿さんではない。女性の声だった。
 だけど、誰が呟いたのかは、分からない――。



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