私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
第十八章・戦闘
大きな体を撓らせ、三つ首のドラゴンはその翼を羽ばたかせた。
黒い鋼のような胴体から生えた三つの首、頭はそれぞれの意思があるかのように、それぞれが別方向へと辺りを見回した。
そして、間近にいた雪村くんを、血走ったような赤い瞳が見据えた。
私は白い空間――魔王の中で、息を呑んだ。
緊迫した空気が流れる中で、雪村くんは堂々と叫んだ。
『アジダハーカよ! 俺に従え!』
魔王を掲げ、呪符に力を込めた。
『ウォオオ!』
アジダハーカは一声雄叫びを上げ、意識を失ったように静かになった。
その途端、映像が途切れてしまった。
「どうなったの?」
戸惑いながら私が白猿さんに目配せをすると、白猿さんが答える代わりに、きりっとした目つきの女性が現れた。
千里眼の能力者だ。
彼女は、少し焦った様子だった。
彼女が何か言う前に、次々と人が現れ出した。
その数は、あっという間に視界を覆う程になった。
(これ、みんな魔王の中にいる魂なんだ)
呆気にとられる私をよそに、みんな不安そうに顔を歪めている。
私は、もう一度白猿さんに尋ねた。
「白猿さん。これって一体?」
「おそらく、アジダハーカと意識が繋がろうとしておるのじゃろう」
白猿さんが不安に眉を顰めたときだった。
「嫌よ! またあんな目に遭うの!?」
人々の中心から声が上がり、その声につられるように悲鳴めいた声が続々と上がって行く。
「あんな目?」
怪訝に首を傾げた瞬間、白かった空間が灰色に滲んで行った。
そして、後ろの空間が、一部黒く変わった。
「あの方向は……」
私は思わず呟き、そして直感した。
あの方向は、魔王に入る時に見た、黒い鱗のような部分があった場所だ。
「きゃあああ!」
悲鳴が響き、私は我に帰った。
黒く変わった部分から、侵食するようにどんどん闇が広がっていく。
人々は前に逃げようと、押し寄せてきた。
しかしその端から、闇へ飲み込まれるように人がどんどん消えていく。
「どうなってるの?」
不安で、怖くて泣きそうになると、白猿さんが私の肩を叩いた。
「落ち着け。良いか? 外ではお前の愛する者達が懸命に戦っておるじゃろう。お前も戦うのじゃ。決して光を失ってはいけない。良いな?」
どういうこと? 私は意味が分からず、聞き返そうとした。だけど、その瞬間、私達は闇に飲まれてしまった。