私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 暗い闇が広がっている。
 私はその中に立っていた。
 宙に浮いているのか、それとも地に足をつけているのかも分からない。
 感覚はまるでなく、暗闇しかとらえない視界に脅えていた。

「白猿さん! 誰か!」
 さっきから大声で呼んでいるのに、誰の返答も聞こえなかった。
 それどころか、発した直後に闇に吸い込まれ、声が出たのかすら判らなくなる。
「誰か……」

 声は自然と尻すぼみに小さくなり、やがて発する事も怖くなった。
 私は、闇の中で膝をついた。
(座れるって事は地面なんだろうか?)
 そんな事をぼんやりと考えて、やっと思考を保とうとしていた。

「~~~~」
「ひっ!」

 耳元で囁くような声に、私は小さく悲鳴を上げた。
 勢いよく振り返っても、そこにあるのは暗闇だけで、何も見えない。
 何を言ったのかは分からなかったけど、たしかに誰かの低声を聞いた気がした。
 背筋にぞっとした悪寒が走り、全身の毛が総毛立つ。

「だっ、誰かいないの? 誰も、いないの!?」
 声を張り上げても、応える声はやっぱりない。
 静まり返る闇の中で、私は耳を押さえつけた。

 誰かが言ってた、またあんな目に遭うのって、この事?
 もしかしてずっと、こんな闇の中で、誰にも会わずに、一人きりで……。

 涙が溢れだしそうになった。
 死ぬのならまだ良い。死んだらこの闇から逃げられる。だけど、私はもう、死んでるんだ。
 死んでるってことは、未来永劫、それこそ永久にこのままかも知れない。
 そんなの、地獄に落ちるよりも辛すぎるじゃない!

「毛利さん、助けて!」
 泣き崩れながら、膝を丸めた時だった。
「許さない」
――え?

 憎しみが滲む、誰かの声がした。
 その声は、外ではなく、内側から聞こえた気がした。
 頭の中から……。

 性別の判断は出来なかった。
 少年のようでもあったし、少女のようでもあった。女性のようでもあったし、男性でもあった気がした。

 不安に包まれた瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。
 誰だか判別がつかない程、大人数の思考が頭に濁流のように押し寄せる。

「やめて!」
 叫んでも止む事はなく、止め処なく流れ込んでくる。
 めまぐるしい情報に、私はえずいた。
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