私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 翌日は、幾つかの町に降り立って休憩をしながら進んだ。
 進むに連れて、建物が変化している事に気づいた。
 三つ目の町へ降りた頃から、建物が変わっていき、本日止まる予定の、五つ目の町ではすっかり、その建物に取って代わられていた。
 その建物は、世界遺産の白川郷にそっくりだった。

 ここから先は、ずっとこういう建物になっていると柳くんが教えてくれた。
 岐附に近づくに連れて、また江戸村のような町に変わっていくらしいけど。
 その理由はどうやら、雪にあるらしい。

 千葉の冬は、厳しく、その殆どが豪雪地帯になるため、おのずとそういう造りになっていったんだとか。
 
 そんな風に旅をして行って、三日目の夕方。日が傾きだしたころ。地平線に大きな町が見えた。
 広い土地を、丸く囲っている城塞都市だ。
 町の真ん中に、シンボルのように建っているのが、王が住まう城だ。城は、白銀のように輝く、日本風のお城だった。
 町の東側は森で、南側は農村地帯。北と西に道が続いている。
 私達は、町から一キロ離れた西側に、旋回して降り立った。
 王都、安土(あづち)の検問前は、列が出来ていた。

「これ、門閉まる前に入れるかな?」
 長蛇の列を前に、思わず不安が口をつくと、
「面倒だな」
 ぼそっと毛利さんが呟いて、同時に柳くんが駆け出した。
「え?」
 なんで駆けて行くのか分からずに、柳くんと毛利さんを交互に見ると、すぐに柳くんが誰かを伴って関所の方から駆けて来た。

 柳くんが連れてきたその人は、兵士だった。
 少し太めの兵士は、機嫌が悪そうに柳くんを見た後、胡乱気に毛利さんと私に一瞥をくれた。

「で、誰だ小僧に嘘吹き込んだ奴は? お前か?」
 ぶっきらぼうに言って、兵士は毛利さんを指差した。
 その横で柳くんが面白おかしそうに、にやっと笑った。

 毛利さんは、無表情で、袖から木板を出す。
 その板は、長方形で、上の方に雪の結晶の彫り物が施されていた。
 そして、なにやら文字が書かれている。
 他の人が関所で番兵に渡すのと、変わりないものだ。
 だけど、受け取った兵士は、見る見るうちに青ざめていく。
 そして、
「申し訳ございませんでした!」
 と、深々と謝罪した。

「まさか、宰相殿が、正規兵も連れずにご帰還なさるなど、思ってもおりませんで……」
「かまわん。さっさとここを通せ」
「はい!」

 兵士のごにゅごにょとした言い訳を毛利さんは一蹴した。
 兵士は慌てて駆け出した。
(――毛利さんって、何者?)
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