私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
「え?」
目をぱちくりさせていると、大勢の人の声が聞こえてきた。
それぞれが、それぞれで何かを言っているので、なんと言ってるのか判らない。けれど、その声音はどれも歓喜していた。
辺りを見回そうと、首を振る。すると、その視線の先からぬるりと人が抜け出してきた。
白い空間から滑り落ちるようにして、人がどんどんと現れ始めた。
「助かった!」
「怖かった……!」
「良かった!」
人々は安堵の息をつきながら、互いに手を取り合っている。
その光景を呆然と眺めていると、背後からきっぱりとした声音が飛んできた。
「光りを見失わなかったんだな」
「白猿さん!」
軽く片手をあげている白猿さんに駆け寄った。
白猿さんの隣には、綺麗な黒髪の少女がいた。
私と同じくらいの年齢だけど、大人っぽくて美人だ。
「毛利さんが大変なんです! なんとかなりませんか?」
「うむ……無理だ」
「え?」
必死の訴えを一蹴されて、私は目を見開く。
「なんでですか!」
「何故暗闇に飲み込まれ、憎悪の声に身をやつしたのか分かるか?」
「多分、アジダハーカの中の魔王と繋がったから……」
「そうじゃ。アジダハーカの中の魔王は、アジダハーカの憎しみに影響を受け、憎悪の塊となってしまったのじゃ」
「アジダハーカの憎しみ?」
小首を傾げると、白猿さんの隣にいた少女が口を開いた。
「アジダハーカだって、生物です。好き好んで殺戮をしていたわけではないんです。食べるため、生きるためだったのよ。でも、人間も必死だったの。だから、壮絶な殺し合いになってしまったんだけど……」
彼女は悲しげに眉尻を下げた。