私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
「アジダハーカは、最後の一匹になってしまった。仲間や家族を殺された怒り、憎しみが、アジダハーカの中に渦巻いているの。それに、アジダハーカの中の魔王が感化されたのね」
「アジダハーカの中にいる魔王は、皆魔王を作る際に犠牲になった者達だからな。まあ、ここの魔王も同じなんだが……だから、感化というよりは、共鳴に近いのかも知れん」
「空間が清浄化されたのは、あなたの誰かを想う気持ちが、憎しみを上回ったからなの。私のときも、そうだった」
「え? あなたのとき?」
訝しがった私を彼女はしっかりとした瞳で見据えた。
「あたしも、聖女なの。あなたと同じ、魔王の器に選ばれた者」
「ええ!?」
「そんなに驚く事か? 聖女の身に起こった事が、お前の身にも起きたのだぞ。聖女が魔王の中にいるのは、当たり前じゃ」
言われて見れば、たしかに。
六百五十年前、聖女は死んだんだから、魔王に吸収されていて当然なんだ。
「ちなみに我の声を通して、この世界の言葉を訳していたのは彼女ぞ」
「え?」
びっくりして彼女を見ると、聖女は申し訳なさそうに微笑んだ。
「あたしは、共通語しか判らないんだけどね。だから、他の言葉は殆ど白猿さんの知識を通して日本語に訳して、あなたに伝えてたの。それに、彼女も……」
聖女は優しく暖かい笑みを浮かべた。だけど、どこか、哀しげというか、切ないような感じがして、つい私は尋ねた。
「彼女って?」
「あたしの中にいる女の人よ。昔、すごくお世話になった人の大切な方だったの」
そう言って、寂しそうに彼女は笑う。