私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
「ここにいる魂達は、魔王の器が魔王の力として能力を使うと、消えてしまうことがあるのよ」
「え?」
「あたしもここに来て初めて知ったんだけどね。命の力を極限まで出してしまうと消えてしまうんだって。消滅するのか、あの世に旅立つのかは誰にも解らないみたいだけど……」
呟くように言って、聖女は辺りを見回した。
「こっちに来て、初めに彼女を探したの。けど、どこにもいなくて……。その話を聞いて、あたしをこの世界へ導いたことで、命を使い果たして消滅してしまったのかと思って哀しくて、申し訳なくて、たまらなくなったんだけど、その時、私の中に彼女を感じたの。今でもたまに私に話しかけてくれるわ」
とても愛しそうに、彼女は自分の胸に手を当てた。
「一人じゃないって思えるわ。だから、〝魔竜の闇〟の中でも耐えられたし、打ち破ることも出来た」
「そうだったんですね」
私にとって毛利さんがそうだったように、聖女にとって、〝彼女〟は希望そのものだったのかも知れない。
「……ありがとうございます」
私は二人に頭を下げた。二人は慌てて私の上半身を起こしたけど、頭を下げても下げたりないくらいだよ。
(二人(と、聖女の中の彼女さん)がいなかったら、きっと全然言葉が解らなくて大変だったもん)
そんな風に思って、ふと見た聖女の顔が曇った。そして、まっすぐに私を見据える。その瞳に、なんとなく不安になった。
「だけどね、ゆりさん。あたし達は、この魔王を操る事は出来ないの」
「え?」
突然の言葉に、私は思わずきょとんとしてしまう。そんな私に聖女は、言いつらそうに語った。
「アジダハーカと共鳴したから魔王は魂を吸わなくなったんじゃないの。三条一族の呪符に操れていたのはアジダハーカだけではなく、魔王もだったのよ。アジダハーカと共鳴した魔王が、力を押さえ込まれただけなの。だから、操れる者がいなくなった今、魔王は通常に戻ったの。魔王はアジダハーカや魔王の中の人達と違って、憎しみや感情で動いてるわけじゃないの。そういう作用があって動いてるだけなのよ」
「じゃあ、どうすれば……」