私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

「私の時は、三条一族の呪術師がもう一人いたから、もう一度鎮めて、私の体の中に戻せたけど……」
「でも、毛利さんは魔王に触れましたよね?」
 希望を込めて訊いたけど、聖女は眉を顰めてかぶりを振った。

「魔王に触れられたのは、あくまでもあなたの体の中にあったから。外に出てしまった今は、触れる事すら叶わないはずよ。せめて結界師がいれば状況は違うんだけど」
「……ううん。そんなはずない!」
「え?」
 私は聖女を見据えた。

「だって、アジダハーカは魔王の力を使えるんですよね? 封魔書に書いてありました!」
「確かに、アジダハーカは魔王の力を引き出せるわ。正確には、魔王の中にいる人の能力をね。でも、それは、アジダハーカの肉体の中にあるからだし、あたし達と違って、元々能力が備わってるからなのよ」

 聖女は自信をなくしたように俯く。その姿は、どことなく卑屈だった。
 過去に、彼女に何かあったのかも知れない。
 私だって上手く扱えなくて、散々毛利さんにバカにされたもん。その時はすごく悔しかった。

(――でも)

 私は彼女の手を強く握って、瞳を真っ直ぐに見据えた。

「私達が心をひとつにすれば、絶対に大丈夫です!」

 彼女の瞳が一瞬潤んで、キラリと光った気がした。

「私、毛利さんとの修行で思った事があるんです。私が魔王を否定してるから、ここのみんなを否定してるから、だから能力が使えないんじゃないかって。私が能力を使えた時って、なんだか、何かと、ううん、誰かと繋がってる感じがした。あなたは?」
「あたし……あたしも、そう感じた事があった」

「きっと、そのときの感情と、ぴったりと合った感情の人が力を貸してくれたんじゃないかと思うんです。シンクロニシティってやつです!」
「シンクロ?」

「はい。だから、ここにいるみんなと同じ事を思えば、願えば、それが力になる!」

 私は、いつの間にか私達の話に聞き入っていた一同を見渡した。

「私達の魂ですよ。私達の自由にならないはずがないじゃないですか!」
 私は精一杯声を張る。
「皆さんは、何がしたいですか!? どうなりたい!?」

 どよどよと淀む声がして、やがて人々の中心から声が上がり始める。

「あたしは、自由になりたい!」
「ここから出たい!」
「天国へ行きたい!」
「生まれ変わりたい!」
 
 みんなの瞳に、強い光が宿った気がした。
 私は、堂々と声を張り上げた。

「私は、毛利さんを助けたい! だから、みんなで、この空間をぶち破ろう!」
『オオ!』

 高らかに拳を挙げ、みんなは一斉に鬨の声を上げた。
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