私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~
「おい。出かけたがっていたな。許可する」
「え~? せっかくアニキが来てくれたのに?」
「許可する」
語気を強く言って、毛利は少女に退室を促した。
少女はふくれっ面をしながら部屋を出ようとし、花野井がその背に声をかけた。
「月鵬が会いたがってたから、行ってやってくれるか?」
「月鵬さんが!? 行ってきます!」
少女は嬉々として手を振って、鼻歌交じりに廊下を駆けた。
その背を見届けて、花野井は部屋へ足を踏み入れた。
「や~い。嫉妬だ。みっともないの」
歌うように黒田が毛利をからかって、花野井と柳の口からふっと笑いが漏れる。
「ああ。そうだ悪いか」
「別にぃ? 良いんじゃないの」
開き直った毛利に黒田は興味なさそうに言って、途端に真顔になった。
「彼女は知ってるの? 自分のこと」
「ああ。目覚めてその日に告げた」
「まあ、酷だっただろうな。嬢ちゃんも、お前も」
「ですが、お姉さんは強かったですよ」
柳が沈みそうになった雰囲気を明るく言って押し上げた。
強い瞳で見て、にこりと笑うと、花野井と黒田は安心したのか笑みを浮かべた。
「そもそも、ぼくのおかげだってことは、忘れないでよね」
「また、お前はそういうことを……そもそもどうして気づいたんだ?」
黒田がわざとらしく言うと、花野井は半ば感心しながら尋ねた。
「封魔書だよ。書いてあったでしょ。魂を定着させた能力者のこと。同じ能力者なら、同じ事が出来て当然ってわけ」
「なるほどな。でも、良かったよな。魔王の魂が分離してくれたおかげで、嬢ちゃんは助かったんだからな。あのまま魔王の中に嬢ちゃんの魂が入ったままだったら、取り出すことは出来なかっただろうしな」
「確かに、あのままだったら困難だったかも知れないね。でも、ぼくは三条雪村なら出来るかなって踏んでたんだよ」
「そうだな。確かに不可能ではなかったかも知れんな」
毛利の同意に、黒田は感心したように口を窄めた。