私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 セシルの自宅は、大きくもなければ、小さくもなかったが、ゆりを喜ばせるのには十分過ぎる程の異国情緒が漂っていた。

 外装はレンガの外壁に、アーチ状の窓があり、木製のドアが内部へと迎える造りだ。
 家の中は、入ってすぐに木で出来た長椅子とテーブルがあり、床は板の間だ。
 奥にはキッチンがあり、テーブルの横に階段があって、二階の廊下と部屋のドアが見えた。

「うわぁ!」
 ゆりは感動しながら、玄関先で一回転して部屋中を見回した。
「そんなに喜ばれると、照れるな」

 ジゼルが、頭をぐしゃっと掻きながら言った。
 何故彼が照れるのだろうと、ゆりが怪訝に思っていると、セシルが彼の背をパン! と叩いた。

「ほらほら、そんな事言ってないで、お客さんにお茶でも入れてあげて。私は部屋片してくるから。よろしくね、お父さん!」
「え、お父さん!?」

 ゆりは目を丸くして二人を見比べた。
 この遺伝子から、この子が出来るのかと、驚愕に満ちた目をしたゆりに、二人は苦笑を返した。

「似てないでしょ?」
「セシルは母親似だからな」
「でも、狩りの腕はジゼルさん譲りなんじゃないか? な、セシル」

 雪村の問いに、セシルとジゼルは嬉しそうに笑い、お互いを一瞥し合った。
 その姿に、ゆりは自分がまた余計な感情が顔に出ていた事を悟って、申し訳ない気持ちで頬を手で覆った。

「それにしても、雪村くんって意外にフォロー上手なんだなぁ」
 ゆりは口の中で、もぞっと独り言ちた。
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