私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
「監禁って、どういうことだよ?」
「今まで、確信はなかった。だが、この進軍の話で確信を得てしまった」
まるで自身に向けて呟くように出された答えは、到底答えとはいえない代物で、雪村は訝しんで首をひねった。
「よく分かんねえけど、だったら早く捜しに行こうぜ」
雪村は話しをあっさりと信じて、今にも駆け出して行きそうだった。それを、間空は眼力で止めた。
雪村はムッとして、眉を顰める。
「なんだよ。なんで行かないんだよ」
「もう捜索隊は出してある。三ヶ月前に、廉抹に話を聞いてすぐにな」
「……はあ? なんで俺に教えないんだよ? それって、もうずっと前に分かってたってことだよな?」
失望から、思わず声高になった雪村に、間空は深く頭を下げた。
「すまなかった。風間にお前を信じろと言っておきながら、話をするのが今の今まで遅れてしまった。まさか、よもや風間が拉致されるとは夢にも思っていなかったのだ」
「……なんだよそれ。頭首だ、頭首だって言うくせに、なんでそうやって肝心な事は言って来ないんだよ」
憤りを抱えて、雪村はどかっとソファに座りなおす。そこに、険のある声が飛んできた。
「貴方が元凶だからですよ」
振り返った雪村を、廉抹はどこか軽蔑の色を含む目つきで見やった。
「廉抹?」
不穏な空気を察し、雪村は硬い声音を出した。廉抹は覚悟を決めたような真剣な表情で、雪村を見かえし、きっぱりと言い放った。
「オヤジ様。自分は禁を破ります」
「廉抹。あの事なら、私が言う」
「いいえ。自分が言います。言わせて下さい」
強い瞳で廉抹は間空を見据えた。ほんの数秒間見詰め合って、間空は折れたのか、小さく頷いた。
「なんだよ、俺が元凶って」
戸惑う雪村を廉抹は眼光鋭く睨み付けた。
「戦時中の折、戯王は、雪村様、貴方に出陣せよと命令を下した」
「ああ」
「だが、貴方はそれを蹴った」
「当たり前だろ。俺は戦争なんかしたくない。誰かの国に侵略なんかしたくないんだよ」
「御立派ですね」
侮蔑するように言って、廉抹は小さく息を吐く。
「でも、貴方は気づいてますか? その裏で、風間様がどれだけ大変な思いをなさっていたか。貴方の代わりに、どれだけ人を殺したのか。再三の出陣依頼を貴方が蹴った事で、代わりに風間様や、当時頭首だったオヤジ様、結、他の三条の者がどれだけの成果を要求されたのか。留火、キミだって憶えはあるだろ?」
話を振られた留火は、気まずそうに顔を伏せた。
「わ、私の話はともかくとしましても、三条の者がこれまで以上の成果を上げなければならなかった事は事実です」
「そのせいで無茶をして、死んだ者も多くいたのですよ。雪村様、貴方は戦死した者達を慈しみ、哀しんでくれましたが、何故そうなったのか、微塵も考えようとなさらなかった。戦争をするから悪い――そんな風に思っていましたか?」
「……」
図星をさされて、雪村は押し黙った。