私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
一休みしてから、三人はセシルの案内で村を見て回った。
結は不本意そうだったが、雪村が嬉々として行くと言うので、ついていかないわけにはいかなかったようだ。
村の集落はなだらかな坂の中心に位置していて、石畳の道が敷かれていた。
村の女性達は、農業をしている者以外は、オフショルダーのシャツに、コルセット型のベスト、長いふわりとしたスカートを着用している者が多く、中世のヨーロッパの庶民が着ていた服装に良く似ている。
男性は、スーツやジャケット姿が多い。
農作業をする者は男女共に、シャツにズボン、ヒールの低いブーツといった格好をしていた。
「功歩はみんなこんな感じなの?」
「そうよ。他の国では石畳もないらしいし、木造建築が一般的らしいけど、功歩では石と木材で家を造るわね」
「へえ。どうしてなんでしょう」
「多分だけど、功歩は地震が滅多に起きないのよ。私自身も今まで生きていた中で一度も遭ったことはないわね。確か、もうかれこれ五百年くらい起きてないんじゃないかしら」
「そんなに! 私のいた国なんて、しょっちゅう起きてましたよ」
驚いたゆりに、セシルは逆に驚き返した。
「そんなに? 功歩の人間ぽくないとは思ってたけど、どこの国の人なの?」
「え?」
しまった――と、ゆりは思わず苦笑した。
日本という異世界からやってきたなどと、言っても良いものなのだろうか。
迷っていると、雪村が明るい声音で割って入った。
「彼女は別の世界の人なんだ」
「は?」
セシルは訝しんで眉を顰め、ゆりは引きつった表情を返した。
そこにすかさず結が割って入る。
「そう。魔王だ」
「……」
絶句するセシルに、ゆりは慌てて取り繕ったように笑った。
魔王とバレてはいけないとは思わなかったが、彼女の雰囲気から、魔王であることを肯定すれば、確実に不審がられ、警戒心を持たれると直感したのだ。
「冗談ですよ。冗談!」
「そうよね。魔王なんてね……で、どこの国の人なの?」
「えっと……岐――いや、爛かなぁ?」
「ああ。爛の人なのね。爛も地震は多いって聞くわね」
そうなんだぁと心の中で思いながら、ゆりはそのまま笑って誤魔化すしかなかった。
「せっかく感心したのに、雪村くんたら、やっぱり雪村くんなんだから」
呆れ果てた独り言は誰の耳にも届かず。心中とは裏腹に澄み渡った青空が、ゆりの瞳に美しく映えた。